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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百七四回 唐辛子かペッパーか
我々が日本で日常使っているピリ辛の調味料、赤色の「唐辛子」は海を越えて東南アジアや朝鮮半島から持ち込まれたのだろうか。私が愛用する、インタネットのウイキペディアによると、このさや状の唐辛子は米国大陸原産だという。日本では五、六十センチほどに成長する緑黄色野菜で外皮は熟すると緑から赤くなり、全体を乾燥してそのまま煮物や炒め物の風味に使うか、粉状にして調味料に使う。その他、胡椒はつる状植物「胡椒」の黒色の実で、大きさは山椒の実と同じ程度で直径数ミリほどの小球、これを乾燥して挽いた胡椒粉も香辛料として使われ、唐辛子に比べると、辛味はよりまろやかだ。江戸時代以後には日本庶民の植物鑑賞の趣味も広がり、観賞用として一株に生るさやの色が白、黄色、赤、紫などの唐辛子を鉢植えで売られた。
日本の緑色の「釣鐘型」唐辛子の果実は辛くはなく、「ピーマン」として売られて、葉を佃煮にしたり、実は肉と共に炒め物に加えて食されてきた。ラテン語系諸国では「唐辛子」はピマンやピミエントと呼ぶらしいが、米国では唐辛子類と胡椒は「ペッパー」と呼んでいる。肉厚で女性のこぶしほどもある品種改良された「緑色の辛子」は半世紀も前から広く家庭園芸用にも「ベルペッパー」として売られている。のちにオランダで品種改良が行われ、成熟すると黄色や赤色の実のペッパーが市場に現れた。ここ十年来、この日本名ピーマンで肉厚かつ大型の鮮やかな黄色や赤色の品種が市場で人気が上がっている。その七割は韓国から輸入され、日本では「パプリカ」と呼んでいる。ハンガリーは世界的な「パプリカ」の産地で、この激辛でない赤い唐辛子を干して粉状にしたものが国際的には「パプリカ」と呼ばれる。
また別の情報によると、ハンガリーでは「唐辛子」は「パプリカ」と呼ぶのだとも言う。米国では、胡椒も含めて唐辛子類は「ペッパー」と一括して呼ばれ激辛のものも少辛のものも含む。ちなみに、我が父方の祖父藤岡勝二はかつて東京帝国大学の言語学者で蒙古語を大学では教えていたが、大正七年に大倉書店から彼の著書「大英和辞典」が発売され、この中に paprika 「パプリカ」の日本語訳を「空見蕃椒」と記している。「上に伸びるつる状で、外来の香辛料がとれる実」と言うことらしい。もちろん「ペッパー」は、この辞書でも胡椒と唐辛子と訳されており、「ピメント」も語源はラテン語と記載されている。一九〇七年と言う時代に英和辞典を作った著者が、「英米の用語の違い」をどの程度意識して辞書の編纂をしていたかは分からない。英国ではオックスフォード、米国ではウェブスターがそれぞれの国民に対して標準となる国語辞典を提供しているが、日常生活に使用される用語と表現は英米ではかなり異なる。
生で食べる緑黄野菜
関東で生まれた私は、職業人として米国カリフォルニアに約三十年間、地元民として日常生活をした。カリフォルニアの生活のパーティーや家庭で食べる食事には、「生野菜」が頻繁に盛られることに初めは驚いた。また感謝祭やクリスマスなどに家庭でパーティーをしたあとは、食材が残るので、そのお残りで毎食を過ごすことも多い。当然ながら、パーティーをすれば参加するには車を使うことなり、アルコール飲料は飲むことになるが、適度以上に酔わなければ事故を起こすこともないと言うのが欧米流だった。
生野菜を使った野菜サラダでおどろいたのは、ニンジン、セロリ、ブロッコリ、カリフラワ、キノコなどは五、六センチ程の長さに切ったのを「ディップ」と呼ぶソースに浸して「ウサギが食べるように、ぼりぼり噛む」と言う感じだ。欧米式は野菜を洗って切るだけだ。あとクラッカーとチーズを添えると好まれる。ポテトサラダは多少準備に手間がかかるが、腹を満たすには都合が良い献立である。ポテトサラダは食品スーパーで買うのがお得である。日本式だと着席が好まれるようだが、何人もの人と会話をするには、立食歩き回りの方が身体にも運動になる。パーティーをする目的はおいしいものを食べるより、人間の交流の場を提供することだとさとった。今年は我が家も自分で蒔いた緑色のベルペッパーの苗に大きな実が沢山なっている。
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