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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百八十回 東大の入学式も武道館で
今年の春は親族の何人かの若者たちに人生の節目が訪れた。母方の甥の息子が郡山で大学を卒業してソフトウエア技術の企業に就職し、京浜工業地帯の自動車企業で実習を始める。父方の祖父の里である広島から東京に出てきた大学生が東大の工業化学で修士を終え、この四月に博士課程の入学式を迎えた。博士課程の入学式は、太平洋戦争時代の東大の入学式とあって、私は野次馬心もあって、彼を祝福するだけでなく、天下の東大の入学式を見定めようと思った。広島から彼の両親が夫婦でいつものように車でやってくるが、本人と母親と私が入学式に出席する。息子は東大本郷の近くに下宿しているので、私と彼は地下鉄の改札で待ち合わせることになった。学部学生の入学式が午前中にあり、大学院の方は午後一時から入学生と父兄その他と入学生が別々に武道館の座席に誘導される。学部を卒業した技術者たちは、それほどの独立心も要求されず企業の中に集団として吸収されていくが、博士課程を終えた科学者や技術者たちは、独立した職業人としての行動を求められる。さて彼の母親と私は一段と高い位置の観客席に同席することになった。息子が東大の修士課程に入学が決まった時は、まだ新型コロナ感染症は終息していなかったので、入学式は再開していなかったという。二時から大学公認の運動部や応援女子のチアダンスなど前奏があり、三十数名の大学名誉者の入場に始まる入学式典が行われ、祝辞が授けられた。私が思い出すのは十数年前に癌で命を落としたアップルの社長スチーブジョブズがスタンフォード大学の卒業式に招かれ残した言葉だ。彼は言った。「愚直になれ」、「素直になれ」私は、自然科学者や技術者は、生来事実を素直に受け入れる人たちであると考えている。
ここ数年来、自動車企業や三菱電機といった老舗であることを看板にしてきた電機産業の仕様偽装やデータの改ざんが摘発されている。報道によると、これらの製造業は長年にわたって、このような悪行を厚かましく平然と行ってきた。その根底にあるのは、宗教心がない恥知らずの集団である。第二次安倍政権は落ちるところまで恥知らずの桜を見る会と言う総理大臣肝いりの偽装集団だったことは、現在では明らかである。
シリコンバレイには、多くの優れた技術者や科学者たちが雇用の機会をもとめて世界中から集まる。その一人は中国広州から秘書になろうと留学してきた女性だ。彼女は良い成績で卒業したので、半導体企業がシリコンコンパイラーという半導体の最終工程で必要なマスクパターンを製造するデータを入力する技術スタッフとして採用した。彼女はもともと技術職としての訓練を受けていたわけではないが、採用した企業は彼女の能力を見抜いていた。シリコンコンパイラーはユニックスコンピュータ端末で微細加工する精密装置にデータを入力する作業が必要になる。彼女はめきめきと腕を上げ、地位も賃金も上がった。中国の自宅に離婚して残してきた一人息子をクパチーノに住んでいるアパートに呼び寄せて、中学校から高校に通わせデアンザカレッジを卒業させ、念願のサンホセ州立情報サイエンス学科に入学させた。息子も母親の熱意に応えて良い成績で修士を卒業し、スタンフォード大学のコンピュータ学科の博士課程に入学できた。そう、問題はここからだ。
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