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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百六十回 驚きの宗教と驚きの政治
この八月十一日から韓国ソウルにある宗教法人、世界平和統一家庭連合の本部で、教祖文鮮明の没後十周年式典が行われた。数々の花輪紹介、少女の合唱、安倍元総理の追悼式、米国の元大統領トランプのビデオ挨拶と共和党現要人の出席、世界からの他の要人を招待した映像が紹介された。日本からは信者が出席したが、日本の議員たちの姿はなかったと言う。この八月に参院選挙で応援演説中の安倍晋三元総理が狙撃死亡したのを契機に、狙撃した山上容疑者の陳述から、新旧自民党閣僚を含む多数の議員を選挙支援したこの教会は、旧統一教会(世界基督教統一神霊協会、教祖文鮮明)であることが判明した。この教会は一九五〇年代から岸信介元総理を盟友として日本の政界に協力していた。第二次安倍政権の元で下村博文元文科相の時代、二〇一五年に教会は申請した改名「世界平和統一家庭連合」が認可された。家庭連合の講演会で祝辞を述べた安倍晋三元総理の映像と音声がテレビ番組で紹介された。
以下に、この教会の教祖が日本人に対して抱く思いが教義になったと言うが、その歴史的な根拠を探って見たい。日本は十七世紀から江戸時代になり、十九世紀後半まで鎖国が続くものの、外国貿易は続けられ国内経済も規模が大きくなり、幕府も遣外使節団を欧米に送り近代化を図り、列強に対して通商のために開港もした。一八六八年江戸幕府はついに大政奉還により代行した政権は天皇に戻され、王政復古で天皇の政治権力が回復され、細かいことは省くと一八六八年に明治維新が完了した。対外的には一八七一年に清朝中国、一八七六年には朝鮮王朝、それぞれと修好条規を結んだ。一八八九年に大日本帝国憲法が発布された。日本の経済進出に大韓帝国が抵抗するので、日本政府は一九一〇年に韓国併合条約を強要して韓国を植民地化し、国名を朝鮮と改称、京城と改称した漢城に統治機関として朝鮮総督府を置いた。日韓両国民の歴史認識の違いは、豊臣秀吉の朝鮮征伐の紀事が、韓人の史記口碑に存在するものと全く異なる(当時日本軍人は全く言葉で表現できない残虐さ)という。日本は朝鮮にひどい植民地支配をして恨まれ、一九四五年旧朝鮮の一部は日本から独立し大韓民国となった。教祖の教義は、日本人は韓人が日本の植民地時代に受けた苦痛に対して謝罪し、失われた財産を未来永劫に保証するべきだと言う事らしい。
旧統一教会は韓国のソウルに本部がある、教祖文鮮明の教義は、過去の大日本帝国による朝鮮支配に対する反感であり、旧約聖書創世記のアダムとエヴァの物語で男性アダムを韓国人男性、女性を日本人女性として、韓国が日本を支配すると言う教義を実現するため、教会組織内で教会が執り行う合同結婚式により男女が結婚する。教会発足の時代は第二次大戦後で欧米の「民主主義」に対向するソ連を中心とするユーラシア「社会主義」が世界を二分する「冷戦時代」だった。日本は大平洋戦争後に米国の管理下に置かれ、米国は戦後日本の「社会主義化」を懸念したため、統一教会と結びついた日本の政権は米国から歓迎された。とくに日本における統一教会は霊感商法で信者から多大な献金を集め、家庭破壊を起こした信者たちも多い。安倍元総理を狙撃した容疑者の母親はそのような霊感商法に取り込まれた統一教会の犠牲者のひとりである。
安倍元総理が亡くなって以来、日本の報道機関は教祖の活動をテレビで公開したが、私を驚かせたのは、教会の活動の費用は、どうやら日本人信者の巨額な献金や教会から勧められた品物から得られる売上だと言うことだ。教祖は効率が良い実業家であり、米国における寿司産業向けの魚肉卸業、日本人信者を使って開拓した寿司屋等から得られる巨万の富を自分の懐に手に入れる人物だと見られると言う。テレビで紹介された画像には、信者に売りつける一冊三千万円の語録をはじめとする様々な商品である。とにかくこれほどの数の自民党の閣僚に食い込んだ教会の力に驚いたと言うほかない。
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