特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百四十六回 国力増強の情報産業
議員の利益のための政治
英国で開催された「七大国会議」に出席し、東京オリンピックを支援すると言われた菅総理は、この応援に自信を取り戻し、胸を張って帰国した。二年ぶりに開かれた、わずか一時間にも満たない国会の党首討論の焦点は、自民党の菅総理と立憲民主党の枝野氏の党首会談だった。私が期待していた話題は「腐敗する政治の改善と国民の期待を込めた新政策の展開」だったが、そんな質疑応答には至らなかった。そして今期の国会は閉会され、二〇一二年末に始まった第二次安倍政権以来、毎年のように起こる政治家の不祥事と公文書保存違反を繰り返す安倍政権は菅政権で幕を引き、疑惑を持たれた閣僚などは罪状を調査される前に辞任すれば無罪となると言う世界一おかしい慣行が再びまかり通ることとなった。
日本の有権者はおとなしく我慢している。だからと言って、現在の政治が正しいと思っているわけではない。コロナ災害で緊急事態宣言が発せられて、飲食や旅行や旅館業が経済的打撃を受けても、コロナ災害から感染症にかかり家族が苦しんでも、人はじっと耐え忍んでいる。それが逆に健全な民主主義の発展を邪魔している。自民党独裁で政治が腐敗するのも、有権者が不満を表明しないから、事態が改善しないでいる。
国力増強の産業政策
日本は一九六〇年代から高度経済成長期に入り、国民生活の水準も大幅に充実したが、一九八九年には株価と不動産価格の暴騰により経済が過熱破壊した。旧通産省は新分野として、半導体や電子計算機の開発支援に積極的であったが、姿が見えないソフトウエアの開発の重要性には政府の関心が足りなかった。その理由は日本では「先見性が足りない文官官僚」が技術政策にも決定権を持つからだろう。私は日本国内で戦略的情報機器の部品開発に十七年、そのあと米国シリコンバレイで通信分野の装置、半導体、システムの開発設計で二十八年間仕事をしてきた。最近、次期選挙対策のためか、自民党の分野別議連で「半導体戦略推進議連」の会長になった元経済再生相の甘利氏は、日本の半導体市場の占有率は世界の五割から一割まで落ちたと指摘した。でも全く門外漢の安倍元総理と麻生氏が名誉顧問だとは驚いた。
半導体の生産には膨大な費用がかかる。一九八〇年頃の日本の半導体生産は「金食い虫」で日立や東芝のような大企業でないと予算の工面が出来ないと言われた。その頃、線幅数百ナノメータの半導体の生産ラインは一本百万ドルが相場だった。半導体の旺盛な需要を見て、情報技術とは無縁の旭化成や神戸製鋼までもが半導体に乗り出してきた。米国と違い日本では半導体の専業企業が育たなかった。二〇二〇年となると線幅は数ナノメータに微細化し、生産ラインには更に膨大な投資が必要になった。この線幅縮小による半導体チップの小型化で、一万倍多くのチップが作れるようになる。日本での半導体生産は一九六〇年頃から三十年ほどで、それ以後の生産は外注になった。二千年頃日本では携帯電話の生産を中止する企業が出始めた。いま世界一超高速の富士通コンピュータ「京」に使用する半導体は台湾製である。自動車用や産業用の半導体は、チップの規模が小さいため、日本国内の「ルネサス」でも製造されている。甘利氏は半導体だ、半導体だと言われるが、チップを生産しなくても、日本には半導体素材の供給や製造工程で必要な装置を市場に送り出せる技術的強みはある。
その一方、ソフトウエア(基本と応用)開発力では米国が最強だ。一九八〇年初め、アップルやIBMの個人用コンピュータ生産と同時代に、マイクロソフトは事務用ソフトウエアを開発設計する企業を始め、ビルゲイツはのちに超金持ちになった。その次の世界規模の情報需要を作り出したのが、現在インターネットを牛耳っているGAFAと言われる四企業で、現在はサービスから得られる多量の「顧客情報」をデータベイス化し他社に売り払って膨大な広告収入を手にしているが、脱税と個人情報の転売と言う倫理問題が持ち上がっている。日本では基本ソフトウエアを開発する力はないが、外国の応用ソフトウエアの使用権を会計、医療、顔認識、教育、投資、災害防止や訓練用で広げている。アニメイションやゲイム分野などで画像処理やAI技術を応用したソフトウエア市場には限りがない。
GAFAとは…
米国の四大インターネット関連企業で、米国カリフォルニア州シリコンバレイが活動の中心地である。Gは創立二〇〇三年のグーグル社で強力な検索エンジンをもつ情報企業、Aは創立一九九一年のアマゾン社で書籍店として起業、Fは創立二〇〇四年のフェイスブック社で集団情報交換のウェブサイトの提供企業、Aは創立一九七七年のアップルで個人用コンピュータ(パソコン)の製造販売で起業した。
先月号の訂正:二段右から九行目の貨幣単位「一ペンス」は「一ペニー」
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