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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百二十九回 トヨタによる近未来都市の住環境実験
この年初に米国ネバダ州のラスベガスで恒例の電気製品展示会(CES)が開催された。今回の出展には自動運転車が多く、なかでも電気製品や情報サービス分野の雄であるソニーの自動運転車と、自動車市場を制する自動車トヨタの「折込み都市」(woven city)が注目を浴びたと報じられた。ウェブに紹介された二十枚弱の寸描は、不動産事業者が描いた箱物の姿に見える。着工は来年で標語は「接続」、「自動運転」、「共有」、「電気」だと言う。あらゆるものがインターネットで接続され、この新都市にはトヨタの社員や退職した老夫婦や研究者二千人ほどの人間が生活する想定だという。この新都市構想が注目を浴びた理由は、トヨタが従来の自動車を製造販売する守備範囲から「脱出」して新社会サービスを提供する姿だとを私は感じた。トヨタは、静岡県裾野市の自社工場跡地七十万平方メートル(面積換算で直径約三百メートルの円)を使って「未来都市建設の実験」に様々な自社技術の移動手段も組みこむらしい。平均するとこの敷地には、三五〇平方メートル(十八メートルの正方形)に一人の人がいることになる。標語の「共有」については、思い起こせば、物が不足する七十年前に育った私は、はじめは「借用」、次の高度成長時代には「所有」、いつも使うわけでないのは「共有」のように、使用できるだけの状態の方が、所有するより邪魔にならないと考えるようになった。物を所有すれば、故障もするだろうし、収納する空間も必要になる。
折込み都市の日常活動
今回のトヨタの「折込み都市」構想は、AI(人口知能)学園みたいなものかも知れない。ロボットも多数登場するかも知れない。昨今、色々なものが宅配されたり、ロボットとのデートの申し込みがあったり、ロボットがカラオケの採点をしてくれたりと、何がトヨタの強みなのかを発表してほしい。書道大会や百人一首でロボットから批評を聞きたい。日常生活での場面を展開するには、遊園地で運転した車同士が衝突してAI(人口知能)警官が処理してくれるのはどうか。お掃除ロボットに電話をかけると、帰宅前にすませ、スマホで連絡してくれるのはどうかな。道路に落としたごみを取り除き、ぬれた路面を警告してくれるのはどうかな。「折込み都市」のシナリオでは、立派な道路がある都市が描いてあったが、もっと日常起こる路上の問題を処理してくれたり、メイルで警告を送ってくれる方が実生活には役立つ。折込み都市内部と外部との有機的な交流について、何か生産的な企画はないのか。
ゴーン氏に国外逃亡される
日産自動車の業績が悪いときにこれを立直したと言うのなら、たしかにゴーン氏は日産にとって救い主だろう。でもフランスのルノーは日産に比べれば技術水準が低く、日産から貴重な情報を取り込んだことも本当らしい。私がカリフォルニアに住んでいた頃、金持ちが多く住むロスアルトスの自宅で、カリフォルニア大学バークレイ校の学生がパーティに招いてくれた。かれはレバノンからの留学生だと言い、ゴーン氏と瓜二つの背格好で毛深い男だった。レバノン人は伝統的に仲介商人の才能があると言われる。私は、赤ワインと共に生まれて初めてレバノンのオードブルを口にした。第一は山羊のチーズ、第二はブドウの若葉で巻いたカスロール、第三はクラッカーの上にブルーチーズと共に載せたザクロの粒々が甘酸っぱく美味しかった。
レバノンの国土は一万平方キロ人口は四百万人程度、国土は肥沃で農作も豊かだ。大西洋側からジブラルタル海峡を三千キロも東に入った地中海の一番奥の沿岸にある。エジプトがあるスエズ運河とトルコとの間の西向きの沿岸の国で、エジプトに近いイスラエルの北で接し、トルコの隣のシリアの西側にくっついている。レバノンはイスラエルの国土の半分ほどで、前十五世紀頃の古代ギリシャ時代にはフェニキアと呼ばれ、海上交通の要所として、仲介貿易で繁栄していた。時代下って住む民族も変わり、古代ローマ帝国時代にはこの地域はキリスト教、そののち七世紀には回教も広がり、宗教と民族が入り乱れた。第一次大戦後シリアはフランスの統治下に置かれ、英国はエジプトを統治した。レバノンは第二次大戦終焉期一九四一年にシリアから独立し、一九七〇年代までベイルートは繁栄を謳歌したが、周辺アラブ諸国と英仏の利害闘争により振り回され、多くの住民が南米はじめ海外に避難した。
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