特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百二十三回 障がい者や年長者の移動をもっと容易に
労働力不足は、障がい者や年長者に労働の機会を開く。昨年末頃に、障がい者雇用法に反して模範となるべき多くの役所が、職場で一定の割合で雇用しなければならない障がい者の数を偽って、障がい者でない労働者を雇っていた長年の慣行が発覚した。仕事をする障がい者や年長者は、自宅で仕事をしたり苦労して通勤したりする。自動車の自動運転の信頼性が十分に高まれば、彼らの自動車通勤が可能になる日も近い。
障がい者の外出の障害
なぜ日本では「障がい者の外出」に障害が多いのか。第一回の東京オリンピックは、荒廃から復興した東京を世界に見せるには十分な意味があった。しかし、その頃は至るところで障がい者の移動に配慮が足りないことは明白だった。それから二世代、約六十年が経つと言う二〇二十年の東京オリンピック開催では障害選手によるパラリンピックも行われる。障がい者に対する環境に「どれだけの改善」が期待できるか。これは私の偏見ならばと願うが、今回の東京オリンピックは「当初のこじんまりした大会」と言うのも「大会を日本で獲得するための言訳」ばかりで、いざとなると次々と箱物商売の本音が何時も通りに露呈し、当初予算をはるかに超える単なる箱物事業ばかりが儲かる話に落ちつき、都市における障がい者や年長者の活動を促進する環境作りには声が低い。
都市整備と土地政策
関東大震災で焼け野原となった東京は当時の大都市としての大変革を遂げ路面電車網が敷かれた。しかし米軍の大爆撃により焦土となった東京の五十年後、百年後を見据え、更に近代化する都市計画の中心を、障がい者や年長者を含む市街道路政策と都市交通網におく考えには及ばなかったようだ。政府は産業や商業の振興による税収よりも、都市化による私有不動産価値の暴騰する相続税に期待しすぎた。世代が変わる度に宅地の細分化が進み、当初の住宅都市計画が保てなくなってきた。欧米では売買や相続による宅地の細分化は法律により厳しく統制されているが、日本では細分化が相続税収増加のために放任された。やっと最近、政府もこれに気づき、小規模宅地の細分化を防ぐために相続税の特例による減免が始まったが、すでに手遅れだ。
政府による良い意味での都市計画の推進には、現在のように国土を安易に民間に払い下げず官有とし、長期計画に基づいた賃貸しをするべきである。とくに日本を乗取ろうとする外国民が、官有にせよ私有にせよ、わが国にある不動産を最終的に取得することを阻止する必要がある。このような危機に瀕していると思われるのは、島根県や北海道の不動産である。私が見るに、外国では役所の計画で必要な道路を作るために、必要な個人所有の不動産は、条例で役所が取得できるが、日本では個人所有者がごねるために公共工事が思うように進まないと言われる。日本の大都市では街路の歩道の幅が不十分な場所が多く、障がい者を含む歩行者の安全な通行が阻害されている。地表の歩道も横断歩道との接続部で段差があったり進行横方向に傾斜があったりして障がい者の歩行や車椅子の通行には不具合な場合も多い。日本では地表の歩道では車両である自転車が交通規則に従わないため歩行者や障がい者は大きな危険にさらされる。また、都市の人口過密化のため通路が地表から屋内や地下へ拡張され地下鉄道と接続される場合が多い。この場合、障がい者が乗換えるにはエレベータやエスカレータが適当であるが、その設置空間が十分無く、階段通路に沿って移送レールが苦し紛れに設けられているものの、扱いの不具合さに耐えかねて不使用の場合が多い。また障がい者通路が後付けのため不本意に長い場合が実に多い。
駅員や運転手による 障がい者の乗降の補助
日本では路線バスへの障がい者の乗降は運転手が補助し「渡り板」を手動で昇降口から出し入れしているが、欧米では全自動で昇降口の「床板」が運転手のボタン操作で上下する構造になっている。鉄道車両への障がい者の乗降も、日本では「障がい者からの連絡」により駅員が職務室や改札から「渡り板」を持って車両の乗降扉まで運び、「障がい者の車椅子」を誘導する。最近、車椅子に乗った障がい者が列車の傾斜があるホームから線路に転落する事故は殆ど報道されなくなった。それは大都市圏で鉄道駅ホームに乗降柵が設けられたことにあるが、十両編成の列車では四十箇所に自動開閉扉を設ける必要があり、膨大な費用がかかる。このような安全柵を駅間隔が短い鉄道路線の全線に取り付けることは、鉄道会社にとって大きな負担となる。
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