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特集記事

Vol.225 -- 2019 年 01 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第百十六回 世界を制覇するのは物財国か情報国か

 世界の各国の経済指標は国民総生産と一人当たり国民生産で表される。前者は国としての経済規模、後者は国民一人当たりの生産である。人間は昔から様々な物財(商品価値がある物、ハードウエア)を生産してきたが、重さや大きさ当りの価値が高価な物は「単価が高い」と評価されてきた。これに加えて、人間の生活には様々なサービスや知的財産(情報やデータ、ソフトウエア)も欠かせない。農業国とか工業国とか呼び方は、その国の生産がハードウエア(もの)であると言う認識である。オーストラリアやブラジルは農業国であり、日本や韓国は工業国である。一方、情報国と言う私の勝手な呼び方は、その国の生産でソフトウエア(サービスや知的財産)が事業としてより大きな比重を占め、これこそが二十一世紀以後の価値が創成される源泉である。従来、西欧の小国には情報国が多いが、コンピュータネットワークを駆使した情報国と言えば、伝統的にはコンピュータを駆使している米国と最近の中国と言えるのではないか。

 現在の国民総生産から見ると、米国と中国と日本は約三対二対一、人口比(億)は約三対十五対一である。世界制覇には、国力や武力だけでなく人口も必須と考えられてきた。中国はWTO加盟以来、輸出型経済に入り毎年六%以上経済成長している。中国は一人っ子政策により老年人口比率が日本と同様増加している。一帯一路政策により発展途上国を植民地化し、世界中に中国人をばらまき、東太平洋を無法占領し、地球上の資源獲得を始めた。中国共産党独裁による監視社会に対して国内暴動による中国の瓦解を防ぐため、防犯カメラの映像と携帯電話メイルから、コンピュータを駆使して国民を監視する。

米国と中国のせめぎ合い
 米国のトランプ大統領はかねてより、中国に対して米国が貿易赤字であることと米国のハイテク技術を不当に使用したと不満を露わにしていた。もう十年以上も前から、米国カリフォルニア州シリコンバレイには、中国ハイテク企業が次々と上陸してきた。マウンテンビュウのモフェットビジネスセンタにアリババグループのデータセンタが新築され、サンマテオにも最近大きなデータセンタが建設された。隣町レッドウッドショアには、米国最大のデータベイス企業オラクル本社がある。この十二月に入って米国政府は中国の巨大通信企業フアウェイの活動に危惧を表明した。十年ほど前に日本電気(NEC)が閉鎖したシリコンバレイの半導体工場跡に開いた、同社の施設が見える。
サイバーとはコンピュータやそのネットワークに関連すると言う意味、ハッカーとは違法なコンピュータ侵入者のことである。米国で一九九〇年頃、米国のコンピュータおたく少年が政府機関のコンピュータに違法に侵入したとニュースをにぎわせた。米国ニューメキシコ州の原子力研究所の所員であった台湾出身の所員が原子爆弾の機密情報を盗んだと報告されたこともある。二〇〇〇年ごろになると日本の防衛省や防衛企業のコンピュータに中国から違法侵入されたと言う事件が何回か起こっている。
中国通信企業フアウェイは、米国政府の物品調達に対して納入者になる申入れを数年前に行ったが、米国政府はこれを却下し、フアウェイは理由がない差別だと反抗していた。今週、米国政府はカナダ政府に対して、カナダに在住しているファウェイの女性副社長を不法活動の理由で拘束請求したが、彼女は多額の保釈金で解放された。何と中国と香港政府発行のパスポート合計七通も所持していたと言う。彼女の父親は元中国人民解放軍の幹部で、ファウェイを設立した大物らしい。米国やカナダ政府の処置に対して、中国国内では、いつものように政府の指導による製品の不買運動に火が着いたもようだ。ファウェイが米国政府調達の業者になることを米国政府が阻止したのは、リスク回避として自然な反応だ。それを許せば、機密情報が国外の装置へ送信される危険を生じる。
世界のドローン市場で販売されているドローンの七割は中国製だと言われている。米国や日本で違法に収集した軍事や技術の情報を符号化して国外に送信しても、それを発見できない可能性は高い。折しも本日十二月十七日のテレビニュースで、日本の携帯電話市場に製品を売込んでいるファウェイは、新機種を発表した。日本製の携帯電話が市場から消えて久しいが、部品だけは世界中に供給している。

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