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特集記事

Vol.196 -- 2016 年 08 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第八十七回 東京オリンピックと東京で起きる災害

責任不在で演者過多のオリンピック準備
 太平洋戦争に大敗して目覚しい復興を遂げていた日本にとって、一九六四年の東京オリンピック開催は、まことにふさわしかった。しかし二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピック(以下オリンピックと略す)は、相応の理由もなく当時の都知事が開催を唱え、国民も都民もそれほど関心がなかった。二〇一二年後任の猪瀬都知事は、大会立候補都市として招致計画や理念を、二〇二〇東京五輪は神宮の国立競技場を改築し、四〇年前の五輪施設をほとんどそのまま使うので「世界一金のかからない五輪」と説明した。他の日本応援者の演出もあり、東京招致は決まったが、猪瀬都知事が金銭問題で辞職した。二〇一四年に交代した舛添都知事は、大会組織委員会から、「最近の試算では、必要な会場整備や大会運営費」は「立候補ファイル」に示された「三〇一三億円の六倍の一.八兆円」になると聞かされる。理由は、子供の学芸会の発表でもあるまいに、「重要な項目が落ちていた」ことと、「材料費と労賃の高騰」だと言う。
 二〇二〇年東京オリンピックの準備は「どんな組織で誰が何を担当するか」が国民にはよく理解できない。文科省が出すオリンピック担当大臣、森元総理が会長となる大会組織委員会、元日銀副総裁が事務総長の事務局等々が名を連ねる。初めの提案では神宮の国立競技場の改築が、いつのまにか新国立競技場の建設になり、そのデザイン公募と選定も不明朗なままイラクのザハ女史の案が選択され、デザイン料も何回か変わった。二〇一二年オリンピック紋章の選択の公募と選定も不明朗だった。そして最優勝賞に選ばれた紋章は、私の目にはどう見ても盗作だった。
 オリンピックに関わる手順のずさんさに、報道も国民も呆れた結果、ついに現政権、安倍総理は新国立競技場のデザインを白紙からやり直すことを要求した。ロンドンオリンピックでは千億円以下で出来たのだから、日本では三千億円以下にしろと。二〇一二年オリンピック紋章のデザインも同様に白紙やり直しになった。日本社会では肩書きは立派だが職務も責任も権限も不明確、欧米社会では明確だ。日本の雇用では職務が明確でない場合が多く、もっぱら企業のために働くと言う表現が多い。欧米では企業でなくその職務のために働くと考える。

東京で起きる災害
日本の人口一億数千万人の一割が東京に住んでいる。その面積は約二千平方キロで人口密度は平方キロ当たり六千人にもなる。通勤通学時には東京の中心に向けて多くの人々が移動するため、鉄道は数分間隔で運転されるが混雑が激しい。道路交通も車両の増加によりますます渋滞する。この緩和に低速で頻繁に停車する車両である路面電車を廃止、バス路線の乗客を可能な限り地下鉄道の増設で減らしてきた。

 五十年間前と比較しても、鉄道による通勤通学時の車内混雑はそれほど改善されてはいない。その理由は、鉄道の高速化と相互乗入れで輸送能率が改善され、東京とその近郊から都心への通勤通学人口が増加したことだ。首都高速道路はこれまた渋滞が激しい区間が多い。その最大の原因は、高速道路出入口での渋滞と首都を通過する車両の迂回路の不足するため、余計な交通量が本来の交通を阻害する。首都高速道路は車線数も少ないため、事故や補修により交通が渋滞する。

 経験的に見ていると、阪神大震災、東日本大震災大津波、昨年の鬼怒川洪水、今年の熊本大豪雨に対し、その間の東京では他の県と比較して災害が少ない。起伏が多い東京中心部は通勤通学人口が集中する時間帯に洪水になることは無いだろう。ただし豪雨や隣接他県から東京へ大量の水が流れ込むと、地震による排水路決壊で通勤通学時間帯に地下鉄道のトンネルに流れ込むという最悪の事態が起るかも知れない。また、東京湾や隣接他県で大津波が起り東京に襲来するかもしれない。

 一次災害は天変地変であるが、二次災害はこれに伴って起る「火災や非難時の人災」や停電時に「建物から脱出できない災害」である。東日本大震災では、東京で行方不明者六十名、住宅の全半壊一万棟余、首都高速道路にも被害があったが、火災は国交省の統計には報告されていない。阪神大震災では地上の火事が大災害の元となったが、この地域には地下街は殆どなかった。一方、東京中心部には多くの地下街があり、地下火災が起きれば被害は甚大になる。長期にわたる仮設住宅生活は、被災者に「大きな精神的緊張」とこれによる「健康低下」を強いる。老齢化した建造物の補修・改修は事故損失を減らすために不可欠だ。

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