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特集記事

Vol.184 -- 2015 年 08 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」

第七十五回 おどろいたお話を三つ

安保関連法案の強行採決の反動
与党が「安保関連法案の強行採決」をした背景は、この春に米国訪問した安倍総理が国会の承認なしに、日本の「集団武力支援」を期限付きで米国に約束したことにある。法案の強行採決の結果、国会前には「多くの国民が抗議集会に参加」反対を叫んだ。さらに、「新国立競技場(新中央会場)予算の膨張(後述)は国民に強い疑念」を抱かせた。この二件によって安倍政権の人気度統計は大きく落ち、危機を感じた安倍総理は「新競技場構想を白紙に戻し予算を再検討」すると国民に約束した。

そもそも日本は、太平洋戦争に敗北し、「自国の防衛」も、「米軍戦力に依存」してきた。日本国民は「専守なら他国に攻撃されず」と言う「平和ボケ」に陥って久しい。東アジアでは、米ソ冷戦の終結(一九八九年)以後、北朝鮮の威嚇戦力拡大、中国の太平洋沿岸の爆発的な戦力拡張と領域拡張行動により、新たな軍事的脅威が生じている。十分な会話もせず中韓ロの日本領土領海侵入も続いている。国同士の関係は「相対的」力関係だが、政治の努力なしには保てない。国民意識に必要な「近代現代の歴史や外交」は、高校の選択科目の日本史で取上げるため、我々日本人の多くは、その知識も関心も薄いから、国民は「国益の堅持」と「国土の防衛」に十分な自覚を持てない。

改善がない国家事業の体質
「誰のためのオリンピックなのか」と女性選手は涙ながら訴えた。安倍総理は「政権の火種」になると思い「新中央会場」に強権を発動した。さもなくば、国民の希望は受入れられず、「主催者と大金に食付く事業集団」の意図に従い、「吊上げられた予算」は十分検討されず独走するはずだった。「最も重要」であるはずの、地域開発や長期国土開発の「地元民参加は無視」されている。

国際オリンピック主催者側は、会場施設のデザインに関与しないと言う。東京への大会招致が成功したのは、「東日本大震災からの復興」を掲げ、世界の同情に便乗出来たからだ。それなのに、重要なことを後回しにして、なぜ「新中央会場」に当初以上の金を優先的にかけるのか。大震災の避難者はなお二十万人もいる。今回の「新中央会場」の当初の二倍の総工費二千五百二十億円は、誰がどの理由で決定したのか。この総工費で東京スカイツリーが四基でき、中国や英国の最近の中央会場が三つから四つ建つと言う。それはお偉方の個人的面子だろうが、金を出す国民の恩恵が優先されるべきだ。

いまさら選択された新中央会場のデザインを変更すれば、十九年ラグビー世界杯に工事が間に合わないと言う。「デザインの決定と工事期間の関係」は、「安保関連法案の採決」と手法が似ている。世界から東京オリンピックに来た客は、建物ではなく、どんな経験をしたかを思い出すだろう。例えば、路上で道を教えてくれた少女の笑顔とか、改札で乗場を教えてくれた駅員さんとか。お偉方は、人が「物で満足する」と「もてなし」を履き違えているのではないか。

ギリシャ人の気質と財政破綻
休暇に旅行へ行くなら、米国東部中部からはハワイやカリフォルニア、西欧北部では地中海地方が定番だ。さんさんと輝く太陽とその地の気候は、過ごす人々の心を解放する。ギリシャもそのような場所なのだ。数学で学位を取ったギリシャの友人は、米国大学の教職につき、アテネ大学に移った。彼は「今日」が楽しければ良い、「明日」のことは考えない、「自由な精神と奔放な心の持ち主」がギリシャ人だと言う。冬に備える北欧の人々とは違う。ギリシャの国土は日本の三分の一ほど、「丘陵地」や「離島」が多い。観光、鉱物資源、農業と酪農が主で、サービス業が六割、農業が二割、工業が二割、それに公務員が多く、汚職とインフレとストライキが絶えない。

ギリシャは二〇〇一年に西欧連合(EU)の仲間に入れてもらった。しかし、たまった何十兆円もの借金を踏倒すことがギリシャ大統領の政権保持の戦略だ。経済が不振なのは、EU諸国の協力不足か、大統領の能力不足か、それとも国民の怠慢なのか。ギリシャの政治は、他国の支配下、王政や社会主義政治の繰返しだ。ギリシャはヨーロッパの東端、対岸のトルコはアジアの西端、その二国の間はボスポラス海峡で、ロシア諸国が取囲む黒海への入り口だ。ロシアは西欧向けに天然ガスのパイプラインをギリシャに通す。この地域、バルカンは、昔から軍事的、商業的に重要で、南シナ海に事情が似ている。中国は海上の世界包囲網を作ろうと、ギリシャの港の獲得にも触手を伸ばす。

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