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特集記事

Vol.166 -- 2014 年 02 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」

第五十九回 オリンピックにしか目がない東京都

 作家曽野綾子さんは、作家は政治に向いていないと週刊誌で述懐した。作家二代による傲慢な東京都政は破滅失政で幕を閉じた。これまでの都知事候補市場とは打って変わり、すでに九人の時期都知事候補者が乱立する。東京の指南役であった後藤新平のような独創力と実行力がある人材がなかなか現れないし育たない。日本の報道界や有権者のもとですぐれた政治家は育つのだろうか。

相変わらずロンドン、パリ、ニューヨークと張合う「東京都白書2013年」なるものにウェブで目を通す。明らかに東京のオリンピック開催を目標に、世界の主要巨大都市との比較が大きな課題と見えた。石原都政で失敗したオリンピック招致の予算百五十億円を福祉予算に使えば、東京の保育園問題は解決したはずだ。今回のオリンピック招致戦略に成功したのは、英国のオリンピック宣伝顧問を起用したからだと言われる。さて中国上海に世界で最も高い塔が建ち、押上に新築した新テレビ塔(スカイツリー)に面子のため突起物を付け加え世界一にしたと言われる。世界巨大都市の比較でも、東京のデータは諸外国と異なる基準を使い、優位になるよう選択されたとネットでは反論が出ている。東京は世界一だと胸を張るのは組長だけで、都民はもうちょっと住みやすければ良いんですがねと謙虚だ。海外の巨大都市であるロンドン、パリ、ニューヨークは、大航海時代、産業革命、世界植民地時代を経て巨大な富を蓄えた諸国が築いたものだ。わが国日本の近代化は欧米諸国を手本にすることで進められたが、いまやこれらが陥っている問題を避けることも重要課題なのだ。また、日本の亜熱帯性気候と活発な火山帯に対する災害政策、東京に在住の高齢者のための福祉強化政策、近隣の独裁国家による侵略防止対策に残された時間はない。

東京の都市計画
企業の活動が盛んになると、これに必要な省庁からの認可が多くなり、中央省庁が集中する東京に本社を置くことが、「印鑑制度と書類の往復業務」の迅速化になる。バブル崩壊後日本の税制度は、本社が住人として一括して東京都に企業住民税を支払い税務署の手間を減らすこととなり、東京都は政府に拘束されない莫大な現金を手にできる。日本では首都東京に全ての役所機能が集中する(米国では財務機能の役所の多くはテキサス州、軍事機能の多くの役所はバージニア州)のを分散する試案が出されたが、世間の議論は省庁移動で「どこの地価が上がるか」だけで消滅した。東京への人口一極集中は、日本の「大企業本社の東京集中」と、この人口を客とする「商売の集中」で起きた。これがここ十年来加速されている都市交通の「郊外への延長」である。これにより東京近郊で集客が低い鉄道の経営は従来の路線のままで乗客が激増した。近郊の観光収入や宅地開発で沿線経済も改善したが、沿線住民が金を東京に持ち出し人口過密な東京の店舗で安く買い物をする機会が増えた。このため地方経済の崩壊を加速する結果になるかも知れない。旧態依然とした日本の土地政策にも問題がある。米国では都市での宅地の分割は一般に許されないが、日本では宅地を分割して売却できるため、せっかくの道路計画が崩壊する。私有地は常に細分化され区画が大きくなることはない。東京はその典型であり、道路面積比率が増加する。この反省もあってか、再開発により広い空き地には高層建築が次々と建てられる。これこそ箱物事業者の絶好な市場、最近の例は二子玉川にある元東急遊園地の広大な跡地だ。すでに三十階くらいの高層住宅が建つが追加工事はまだまだ続く。混みあう駅広場は人間が多く、新たに建ったビルの間の広場は日光が入らず「人間味」がない機械的空間で、腰を下ろす場所も殆どなく寒風が吹き抜ける。

大都市の豊かな市民生活
われわれ日本人は生まれると儒教社会制度の鋳型に流し込まれ、ロンドン、パリ、ニューヨークをつくった欧米人のように精神の独立が許されないのが、欧米にはない「おれおれ詐欺」の原因だ。幼稚園では上級生を年長さんと呼んで差別教育が始まる。国会を見れば分かるとおり、先輩が若輩の名前を呼びつけるのは常套、いまだ日本中に充満する親分子分年功序列の差別が、運動部部活の暴力問題の根源だ。豊かだった国土を箱物で一杯に汚染した過ちを相変わらず続けるか、本来お手本だと思っていた北欧の社会福祉政策へ軌道修正するかは、我々国民の自覚と努力次第で可能だ。政治家や報道の私利私欲に感化されず、投票者の価値判断を示す今回の都知事選挙であって欲しい。そして投票後、政治家を見守り意見助言するのは有権者の義務でもある。


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