Vol.118 -- 2010 年 02 月号
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第11回<ブランド校偏重は改まるか>
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不景気になると人員削減と採用削減や中止は世界現象だ。日本の企業はブランド校からの新卒採用がお好みだ。これだけ不景気になり各社が新卒採用数を減らすと全体の採用数が減るので、ブランド校新卒の割合が大幅に増え、それ以外の大学の新卒採用は大幅に狭められるように思える。とにかくブランド好みの日本では、ブランド校偏重の傾向は変わらないだろう。新卒雇用企業は日本では学歴が同じなら採用の条件に差を付けることはしないが、欧米では学校と成績によって条件にも差があり、将来の昇進も違う場合が多い。それは欧米の学校教育が生徒一人一人の能力を基盤にした結果である。最近の欧米での子供の教育は過去のことの記憶に集中せず、問題の分析力、合成力、創造力に重点を置いている。特に米国では生徒の間の討議と意思疎通力と協力を重視している。それは教師と生徒との間の質疑ばかりでなく、生徒同士の質疑の仕方も指導する。
「今の大人」たちは「この頃の若者」は自分たちの若い頃に比べてなってないと批判する。
「この頃の若者」たちは「今の大人たち」が作った環境で育っているから、責任は「今の大人たち」にあると言って過言ではない。私が大学で教えたのはわずか二年であったが、「最近の若者」を知るのには十分であった。大学にも大学生にもいろいろあるが、私の経験では、彼らは学校で学んだことを「選択式試験」で評価されることが多いので、答えはただ一つで、これを選ぶことに慣れきっている。自分で作文して説明することは「大の苦手」だ。長文を読んで理解することも苦手だ。問題の出し方が選択式になってしまった理由は、米国から導入された、採点の客観化と能率化のためだ。それから問題文の「穴埋め式」も採点能率向上のために入学試験では良く使われる。義務教育で勉強する内容は記憶、記憶、記憶とおぼえることが多い。それは規則や事柄だったりする。しかし理解を試すには今までの知識を結集して答えを出すこと、再構築することが求められる。
ブランド校大学の受験競争が激しいのは、雇い主である企業からの需要がそこへ集中するからである。日本の企業は学生の資質よりも学校の名前、ブランドを重視する。最近、推薦入学制度やAO入学制度も採り入れられたとはいえ、日本の大学は各大学の「学科試験による入学」が基本で、米国では全国標準学力試験(SAT)とそれまでの学業と活動の個人評価がより大きいのと対照的だ。米国にも塾や予備校はあるが、それは全国標準試験で高い点数をとるための季節的訓練でしかない。したがって、彼らは子供の頃から塾通いで青春時代をすごす事はない。日本で義務教育における普段の勉強を無視して、並行に特定大学受験のための勉強に時間と精力と金を使うのは無駄であり、米国では考えられない。
日本の大学が独自の学科試験を行う理由は何なのか。大学に言わせれば、高校の成績が信用できないから、受け入れ側の大学で独自にやると言うだろう。私に言わせれば、これこそ、縦割り政治以外の何物でもない。米国では全国の高校生は全国標準学力試験(SAT)を受ける。それは何回受けてもよく、そのうちで最高点を使えるがSATにはかなりの数の科目があり、分析力を評価する問題も多数含まれている。日本では大学、高校、中学校、小学校が、文科省の主導により高校生までの勉強の仕方とその評価の仕方を一緒に協議して、学生に無駄な負担をさせず、両親に余計な浪費をさせず、効率がよい基礎力をつけるよう努力して欲しいと思う。諸悪の根源は、管理することばかり考えた文科省の能力と努力の不足だろう。現在の日本教育界は問題山積で、素人目の私には、第一に文部省と教育委員会と教職員組合との不協和の解決、第二に大学の講座制度から学科目制度への移行を早めることが先決だろう。それが出来れば現在の家元制度の学内は活性化し、国公立大学を独立法人化することはそのあとで良いと思う。大いに期待したいのは、義務教育の生徒たちが塾などに行かずに健全に成長が出来るようにすることだ。塾に通う時間とその勉強がなくなれば、本来の学校の勉強とクラブ活動や友達と付き合う時間と家族のだんらんにゆとりが出るはずだ。
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(送り先 月刊ハロー編集部)
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