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特集記事

Vol.35 -- 2003 年 03 月号
【菊に魅せられて】
↑昨年11月に内閣総理大臣賞を受賞した三本立。
 松戸市樋野口の吉田武雄さん(64)は見事な菊を咲かせる「菊づくり名人」である。趣味とはいえ全国に30万人ともいわれる菊花マニア。その晴れ舞台である菊花大会で内閣総理大臣賞をはじめ数々の賞を獲得。菊づくり日本一の栄誉である「高松宮妃殿下杯ブルーリボン賞」にも輝いている。
 家は代々、主に小カブを作る専業農家であり吉田さんは4代目。樋野口の小カブといえば全国的にも知られている銘柄品だが、秘伝のカブ作りも栽培技術が進みどこでも同じものが生産されるようになり、いつしか「菊づくりの合間の小カブになった」と照れ笑いする。菊との出合いは中学生のころ、通学途中に展示されていた大輪の花に子供ながらも心惹かれたという。その後、たまたまもらった一本の苗をきっかけに菊づくりが始まる。以来45年、ひたすら菊を咲かせ続け、見る人を魅了してきた。その背景には人知れぬ秘めた思いがある。実父は幼いころに戦死し顔は覚えていない。母は16才のときに他界。そんな寂しさや孤独さをかみしめながら花を咲かせることに精魂をかたむけてきたのだろう。吉田さんが手がける大菊は、数えきれないほどの花弁が中央の一点に向けて整然と盛上がり、見事な毬状を形づくっている。その姿は強く、しなやかで、人生の哀しみや歓びといった心象が写し出されているかのような不思議な魅力がある。
 敷地内には菊専用のビニールハウスや小屋があり、毎年150鉢前後を栽培している。これから春先にかけ土作りと苗作り。4月下旬には挿し芽をし本格的な菊づくりが始まる。菊づくりは一にもニにも愛情と熱意。「千手がければ千に咲く」というように日々の地道な努力の積み重ね。だからこそ苦労して育てた菊が思い通に咲き、多くの人に見てもらえることが何よりの歓びという。秋に咲く一瞬の輝きのために、そして自分の輝きのために、吉田さんは今日も菊づくりに励んでいる。
↑水やり、温度調節など日々の手入れにも余念がない。花が着き始めると毎日のように話しかけ、自分の歌声を聴かせているという。 ↑日本一の栄冠を手にした吉田さん。数々のトロフィ−や賞状が並ぶ小屋は菊友やご近所の皆さんとの憩いの場にもなっている。

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