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特集記事

Vol.273 -- 2023 年 01 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第百六十四回 核融合と言う新技術

 人間の作業を助けてくれる「力のもと」について考えて見よう。古代から人間の歴史では、家畜力や人力を単純作業の「エネルギー」として利用してきた。流水は静水が持たない動力である「水力」を持つので水車を回すことができ、木炭や石炭や石油などの炭化物を燃焼して水を加熱して得られる「蒸気力」は拡張する圧力があるので、「エネルギー」として家内労働や工業生産で「動力源」として使われるようになった。十八世紀半ばに産業革命で使用されて来た「エネルギー」は、ニュートン力学で言うと静止した「質量」に「加速度や速度」を付与する。「蒸気機関」を使えば「回転する動力」が得られるので、「船舶」も「鉄道」も動かすことが出来るようになった。「炭化物」の燃焼「エネルギー」で機械を動かすことが普及したので、工場地帯の気温が上がり、空中に有害ガスが多量に放出されるようになった。十九世紀の西欧工業社会は、至る所が炭化物を燃す煤煙で満たされるようになった。 

 またボルタの電池の発明や電磁気学が応用され、交流や直流で動く電動機や発電機や変圧器も発明された。すなわち「高度差」でエネルギーを得た「流水」は発電機を回し、回転させるや蒸気タービンを回転させる「蒸気」を発生する石油はエネルギー源だ。

 現代の多くの商業用原子力発電は、原子核反応時に発生する熱エネルギーで高圧の水蒸気を作り、蒸気タービンおよびこれと同軸で接続された発電機を回転させて発電する。現在の日本の商用原子力発電では、減速材、冷却材のどちらとも軽水を使用する軽水炉である。公害ガスを発生しない利点があるので、五十年ほど前から原子力発電が実用化されてきた。エネルギー源として使用された「核燃料物質」は半減期が長いので「放射性廃棄物」として人体危害を避けて地下に保管されることとなった。

そればかりではなく、二〇一一年に起こった東日本大地震大津波では福島第一原発が地震被害を受けて緊急停止、海浜付近の地下に設置された非常用発電施設に海水が浸水して全く機能せず、発電所の緊急制御装置が不能になり、外部から急行した電源車の接続ジャックが管理棟の非常用接続プラグと合わない形状なために電力を供給できなかった。冷却が必要な燃料棒冷却槽の温度が核反応で上がり続け、ついに冷却塔が爆発して放射物質が空中に放出されて放射汚染が拡散された。この時にはあわや「第二のチェルノブイリ事故」かと世界中を震撼させた。原発周辺の住民は放射線汚染から避難して既に十年が経過したが、今も地下水脈を通して漏れ続ける「放射線汚染水」は原発付近の地表に次々と追加される大型タンクに保管され行き先がない。

 経産省は当初「核廃棄物を発生する原発」が実用されたときから、「再処理型核燃料原発システム」の研究開発が開始されたと言うが、その成果に関する発表は余り公表されていないし、実験検討の進捗があったようには見えない。国際的には五十年ほど前から放射能廃棄物を出さない「核融合」による発電の実用化が模索されてきた。その結果が今週にわかに報道された。「核融合反応」とは太陽で起こっている「原子核内の粒子がばらばらになる高エネルギー状態」であり、各国の公的研究機関や大学で主導的研究をしてきたが、ここ数年は民間勢力の台頭が目立つ。第一の方式は大半の研究機関が行っているもので、強力磁場で電離水素を凝集し、超高温で融合させる「磁場封じ込み」を行う。第二の方式は米国カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所が採用しており、電離水素気体を大出力のレーザ光(二・一メガジュール)で照射して約二・五メガジュールのエネルギーを生成する「慣性封じ込み」(利得約二〇%)。第三の方式は一九八九年に米英の大学研究者が発表した、いわゆる「常温核融合」で「凝縮系核融合」という名で日米を中心に関連特許が出願されている。二〇一五年東北大学と民間企業の共同研究が進んでいる。とは言え「核融合反応」自体が地球上では「極限現象」なので「核融合発電」の実用化には解決すべき多くの要素が待ち受けている。太陽が置かれている「宇宙環境」の要素を地球外で実現できれば新たな知見が得られるかも知れない。

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