特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百四十八回 トンボの頭脳に学ぶ
私が属する米国の電気電子技術者協会の会員月刊誌に、こんな記事が掲載されていた。四十七億年前に地球が誕生して以来、生物の進化により、身体が小さく、高速で運動し、エネルギー効率が良いトンボの体内にも「神経網」が生まれた。それならミサイルの防衛にそれを応用しようではないかと言う話を紹介したい。我々の脳にある九百億個の神経細胞は、感覚器官と記憶から送られる並列入力を処理して高速に認識活動をおこなう。生物には、何百万年もの進化から磨き上げられた「生まれつきの特技」が身についている。例として、家で飼う愛玩動物は逃亡の名手だし、鳥や蝶は毎年渡りからあなたの家に戻ってくる。蟻が食料品庫に侵入するのも特異な能力だ。
彼らの特殊な神経網は模擬的な人口頭脳ばかりでなく、人間の頭脳を研究するのにも役立つだろう。食料品庫を襲う蟻の神経細胞は二十五万個ほどあるが、より大きい昆虫には百万個の神経細胞がある。蟻より大きいトンボの脳細胞の研究には、突入するミサイルを迎撃や匂い気流を追跡すると言う任務に最適化した計算システムの設計に、これらの昆虫の特異性を使える。トンボの神経細胞の速度や単純さや効率を取込んで、通常の計算システムが消費するよりも少ない電力で動作することが目標だ。
トンボが未来の計算機システムの先駆者だと考えるのは妥当かも知れない。人口頭脳や機械学習の開発の重要な話題は、人間の知能や超人的能力を代理する「原理」だ。人工の「神経網」はすでに医療分野で癌を検出する走査方法として、人間並みの判断能力を発揮している。これらの神経網の底力は従来の画像処理能力を拡張した。計算機プログラム「アルファゼロ」はその学習能力により世界最強の「囲碁名人」になった。巨大な予算をかけた大型計算機で性能を誇ることはできても、自然界の生物が示す捕捉能力には経済性で勝てない。あのように身体が小さいトンボでも餌である「蚊」の運動を二十分の一秒で追随し九十五パーセントの確率で捕捉する。過去何十年も米国の当局はトンボからの着想を偵察用ドローンの設計に応用しようと実験をした。言語パイソンを使用しトンボの眼球を模した二十一×二十一個の視覚神経細胞を使用し「トンボの大きさに模擬システム」を試作しては見たが、性能の話は次のお楽しみと言うことで。
アフガニスタンは再びタリバンの手中
二〇〇一年九月十一日、米国ニューヨークの世界貿易センタに大型のジェット機が飛び込んで炎上した映像は、未だ多くの人々の脳裏に残っている。米国同時多発テロ事件が起きたのだ。息子ブッシ共和党政権は、「九一一事件」はイスラム原理主義者集団の仕業だとして、米国と北部同盟によるアルカイダに対する報復紛争を始め、二か月でタリバン政権が崩壊した。同年末にパシュトゥーン人のカルザイがイスラム共和国初代大統領に就任した。多数派のタリバンに少数派の民族連合が対決したので米国は中々撤退できなかった。抵抗するタリバンに対し十年かかって二〇一一年五月、首領ビン・ラーデンはパキスタンの隠れ家に潜んでいたところを海軍の特殊部隊に殺害された。これで「九一一事件」の首謀者たちは死亡または殺害されたことになる。
八月十五日のニュースによると、イスラム原理主義勢力のタリバンが首都カブールに入り大統領府を乗っ取ったと伝えられた。米国の経済的支援を受けていたアフガニスタンのガー二元大統領は財産をもって国外へ脱出し、米軍戦闘部隊はすでに撤収され、閉鎖された米国大使館の職員は軍用機でカブール空港から国外へ退出した。ニュースではアフガニスタンの混乱が伝えられたが暴動などはなく、タリバンに全国土が支配された。タリバンの支配を恐れて国外へ移動する人々には、苦難の旅が待ち構えているだろう。シリア内戦では、アラブの春と言う反政府運動は続かず変質しイスラム原理主義過激派が台頭した。国外から思惑の異なる多国籍軍隊が自分の権益を拡大する代理戦争の舞台となった。アフガニスタンと同様に「特攻イスラム少年兵」と「子女民間人難民」が犠牲者となる。西欧からの支援金をもらってシリア難民を国内に留めおくトルコも、増え続ける難民をせき止める防壁を国境沿いに作り始めた。中国は世界中に自分の権益を広げようと駆け回り、日本国は家芸の「言わずと分かる」で離島領土と外人所有地が次々と危ない。コロナで国民が苦しむ最中、永田町では「次回の選挙もよろしく」の掛け声ばかりが響く。
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