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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百四十回 コロナ疫害の年を乗り越える
コロナ疫害の年には感染回避のために「在宅勤務」が奨励された。日本における「長年の習慣」である混雑通勤、過密職場、長時間労働に実質的な「働き方改善」を期待したい。事業所は職場空間や交通費の節約を期待するようだが、社会全体の効果が問題となる。一方、世界の航空会社では何年も前から、顧客サービスは二十四時間は時間帯が異なる世界各地の「顧客担当」が電話応対をしていた。時間外に話す英語の訛りが違うので、どこで話しているかと聞くと、異国のインドのムンバイだったりする。今回のコロナ対応は拘束される「勤務場所」が「事務所」から「自宅」になり、働く「時間帯」ではないが、いずれ業種によっては拘束される「勤務時間」にも波及すると思われる。
家人がいる「自宅勤務」は仕事にならないと言う一方、子供がいても仕事の邪魔にはならない場合もある。ウェブに出した商品広告の対応時間に問合せる客を相手にする「販売業」や「接客業」では、応対する場所を問われない。仕事の成果は客に対する「出来高」だけで決まるので、自宅勤務向きである。AIロボットが接客営業をこなすようになれば、人間は不要になる。現在は各社のAIロボットは簡単なサービスなら十分に役目を果たす。ソニーが数十年程前に売り出した愛玩用ロボット「アイボ」を愛用者は多かった。身体を自由に動かせない人間の身体介助を介護ロボットがこなすとなると、歩行介助以外は人間の介在なしに業務をこなすことは現在でも難しい。
欧米のソフトウエア産業では「自宅勤務」は今に始まったことではない。インタネットで接続される顧客や必要な文書などに接続できれば、自宅に印刷された文書は殆どの場合必要でない。時差を活用した仕事の仕方もある。米国のソフトウエアの外注先はインドのシリコンバレイであるバンガロアに多い。米国の客先が夕方終った後、作業仕様を宿題としてインタネットでインドの外注先へ送り、その回答は早ければ翌日米国側で朝に受け取れる。しかし英文で作業指示や仕様が書いてあっても、英語に堪能な外注先の作業者がその真意を完全に理解したとは限らないと言う苦情を聞いたことはある。問題解決には両者が共通する時間に直接ビデオ会議を開くことが無駄をしない早道だと言う。
日本が商業的に大成功した商品である「アニメ」と「ゲーム」は、その成功の反面、若者の生活を大きく変貌させた。この二つの商品群は、人間の心から自主性と独立性と創造性を奪ったような気がしてならない。さらに現在の日本が持つ「国際競争力の年々の低下」は「安定した政治」を好む日本人の国民性とも無縁ではない。儒教に沿った社会理念の「江戸時代」、天皇制をいただき大東亜共栄圏に走った明治維新で始まり自信過剰で惨敗した太平洋戦争の「軍国主義時代」、米国により日本の武力が骨抜きにされた大戦後の新憲法下では、米国の巨大な需要で日本は高度経済成長を遂げた。中国の技術力と経済力の急速な拡大で日は蓄積した力を確実に減らしつづける。
米国大学(MIT)で勉強していた日本人学生が考えついた新しいネットサービスに「出張中に自宅に飼っているペットの給餌と声掛けと安全を監視するサービス」が事業化されたとシリコンバレイで報じられたのはもう十年も昔のことか。このサービスは中々人気があるそうで、さすがである。ベンチャ投資家が多数いるシリコンバレイでは、すぐれた着想を実現する機会は多い。二〇〇三年に事業化したグーグルなどインタネット関連の事業を開始するのにはそれなりの機材が必要だから資金が必要だが、ヤフーのように資金が殆どなくてもできるサービスもたくさん転がっている。シリコンバレイは「おたく」の技術者が街角にいるほど人材に恵まれてもいる。しかし最近のシリコンバレイのネット関連産業GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)は個人情報で巨大な利益を手にしている。第五世代通信も含め、情報を制する者が世界を支配する。
江戸時代末期に埼玉深谷出身の渋沢栄一が京都に一橋家の徳川慶喜を訪ねて家来になり、パリ万博へ随行して西欧世界を見て開眼したように、どの時代も場所と時と巡り合わせにより人生の好機は訪れる。その機会を逃さないのが優れた人と言うのかも知れない。このコロナ疫害の日本の世の中でも、時代の需要にめぐり合って事業に成功した人はテレビで報道されただけでも結構な数いる。時代により需要を産む原動力が変わっていく。この新年は別のやり方を考えよう。
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