特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百三十六回 災害に対処できる社会基盤
過去の経験
過去僅か十年間にも、驚くほど多くの災害が我々の身辺で、それも国内で起こった。人口統計が示すように、現代の日本社会は、世界の先端を行く高齢化社会だ。社会自体が認知症にかかったように、貴重な災害の経験を忘れてしまう。過去七年間の自公政権の業績を誇らしげに自慢する安倍総理には、過去の災害から学んだ姿は見られない。今回中国で発生した新型コロナビールス感染症は、中国旅行者が北海道へ旅行したことや豪華客船ダイヤモンドプリンセス号の乗客から日本国内に感染させたものと思われる。今年の三月時点での日本政府の防疫体制は無防備そのものに見えた。スペイン風邪と称する疫病が日本に感染したのは、百年ほど昔の一九一八年で、猛威を振るった記録が残っている。
一方、日本へ上陸した新型コロナビールス感染症に対しては、今年四月下旬に緊急事態宣言が出され、二ヶ月間、巷の活動の自粛が政府と地方自治体から要請され、住民と事業者達は対応に翻弄された。感染回避のための自宅勤務、自宅学習、巣ごもり生活は我慢の限界を超えた。欧米諸国では、生活自粛の見返りとして個人や事業者に給付金が「迅速」に支払われた。日本政府は最終的に国民個人(特別定額給付金)と事業者(雇用調整助成金)に給付金を支給することにしたが、払込の遅延は大きかった。その原因は、日本には諸外国のように全国民を同定する国民カード制度が普及していなかったことだ。
国民カード
欧米では何らかの形態(医療カードか国民カード)で各国内在住者は全員が番号で管理されていた。例えば、第一次大戦で好景気に沸いた米国では、一九二九年にニューヨーク株式市場が沸騰大暴落し米国経済は大恐慌に陥り、四人に一人の国民が失業した。規模が大きい米国経済の破綻は西欧にも及び世界恐慌となった。大不況時に全国展開された経済回復政策のために、一九三三年に九桁の番号が各人に割当てられる「社会保障カード」が制定された。当時は未だコンピュータがなく手書きで管理され、在米人全員の雇用や徴兵の目的で作られた。現在では失業給付金、年金支給、医療受給、銀行口座やクレジットカードを開くとき本人の同定に使用される。米国では自動車運転免許証は各州が管理するが、別の州に定住すると前の州の免許証は次のものと交換され、新免許証番号が発生する。
給付金の支払
今回のコロナ災害では日本政府が「有資格者全員」に給付金を給付するが、振込み作業など実際の給付作業は、地方自治体の代行機関が行う。日本の慣行では、このような代行機関の理事などの上級職には省庁からの天下りが高給で処遇される。今回のコロナ災害に支給される「特別定額給付金」や「雇用調整助成金」の審査業務や口座振込み業務は、東京オリンピックの行事変更により多額の広告費用の欠損への穴埋めとして、電通に丸投げ七百億円余と言う甘い贈り物が準備されることとなった。政府「予算」は縦割り省庁が群がる餌場で、その「結果」や「費用対効果」など評価されない。「予算」で「未消化分」は当初から予想されているようで、「使途不明分」も説明されないのは、血税を払っている納税者には、大きな不満だ。それに国会議員の高過ぎる歳費の身を切る削減の約束はどうなったのか。与野党交代の機会に、相変わらず雑魚の睨み合いしか出来ない野党には失望する。
生徒の能力を伸ばす
米国に遅れること七十七年で未だに日本には国民カードが浸透していない。政府は欧米諸国の「デジタル社会」は「コンピュータ」と言う「ハードウェアを買い込む」ことと考えているようだ。コンピュータを使って収集した「大量データ」から「新しいシステムを構築する情報を得る」のが投資と考えるべきだ。自公政権は省庁の縦割りを除く努力を放棄し、逆に省庁間の利権闘争を利用して「自公政権への忖度の維持」を至上命令と考えている。文科省は教育補助金に群がる学校の管理に甘んじた結果、日本の教育水準は世界でも底に近い。日本の大学教育を無償にしても、子供の才能が伸びるわけではない。正規の学校の授業があるのに、大学受験のために親が金を払って子供を塾に送るより、大学受験学力試験を廃止して、塾の費用と無駄な勉強をせず、その代り正規授業で創造的な活動をやる方が、子供の才能は伸びるのではないか。受験勉強に疲れた大学生は、遊ぶ金欲しさに働き、大学で勉強しなくなる。
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