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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百三十回 新型コロナ系ビールス感染症
二〇〇三年に中国広東省で発生したコロナ系ビールスは八千人に感染し、重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生し予防接種剤も特効薬もないまま終息した。二〇一九年には湖北省の人口千百万の工業都市、武漢市で類似の新型コロナ系ビールスが発生、習近平首席は一月七日の党大会で危機を訴えた。今年二月七日には武漢の新型コロナ系ビールス感染者は二万四千人、十六日には六万八千人となり、中国での死亡者は千七百人を超えた。人口十数億の中国では、一月下旬の春節の休暇に労働者は一斉に職場から故郷へ戻る。この年末休暇の人の移動に従い、流行する疫病も大都市から地方へと伝播する。この事態に鑑み、中国政府は疫病が流行っている武漢などの大都市に封鎖令を出し人間の流れを封じ込んだ。日本政府は日本から武漢へ民間専用機を飛ばせ、五回で八百二十八人の日本人を帰還させた。
プリンセス号の航海
英国船籍を持つ豪華巡遊船ダイヤモンドプリンセス号の碇泊計画をウェブで調べてみた。同船の二〇一九年十二月の寄港地は、横浜、キールーン(香港)、鳥羽、清水、那覇とあり、横浜港での碇泊は、同月七日、十五日、二十三日となっている。なお同船は、今年一月二十日に千三百人の日本人客が乗って横浜港を出航し、鹿児島、香港、ベトナム、台湾、那覇を巡って二月一日に横浜へ戻る。中国の武漢で新型コロナ系ビールスの感染者が旅行中のプリンセス号の乗客に香港などの港で接触すれば、日本人乗客や沖縄住人はいずれ感染する。昨年十二月と今年一月に、プリンセス号が那覇港に停泊したときに上陸した感染者は沖縄の日本人にビールス感染させた可能性はある。この船は今回十九人のビールス感染者が出たベトナム(一月二十七日にチェンマイ港とホンガイ港)に碇泊したので乗船者は感染する可能性がある。ベトナム筋の広報によれば、観光客は事前に健康診断を受けており問題はなかったと言う。翌日、同船はハロン国際港に碇泊し、約二千五百人の乗客が下船し市街観光をした。
今年一月に横浜入りしてプリンセス号には、乗客二千八百人と乗員千人の中、アジア旅行から二月に戻ってビールス検査を受けた四百四十人の中の百七十四名が感染者となった。ビールス検査を受けた人数は、より最近の検査ほど多くの感染者が出ている。米国や香港政府などは自国民の権利に関する理由から、夫々の政府が乗船している自国民を本国に帰還させるべくWHO(世界保健機関)とも話し合いを始め、専用機で自国民を帰還させることにした。米国民乗客は四百人ほどで四十人が感染しているため、彼らは日本国内の医療施設が介抱することとなった。
プリンセス号の船内衛生
この船には様々な等級の部屋があり、乗客に奉仕する千人もの職員が乗込んでいる。船内は部屋が仕切られ、空調が等級ごとに共通になっているはずだ。乗組員たちの多くは大部屋で飲食も共にする。したがって、衛生上の問題は何時でも起こり得る。客同士が個室で生活しても、そこへ奉仕する人々は別の客室へも立入るので、衛生上の分離ができない。長い一日の時間で共通の遊技場やバーに出かけることもあろう。外の空気を吸いに甲板へ出ることもあるだろう。港で停泊して上陸するときは、町の雑踏へ立入るだろう。悪い噂が流れて、ある日から謹慎生活になっても、病院の病室のような清潔さを保つことは無理だ。密室空間の船内は、新型コロナ系ビールスの温床になっているかもしれない。
日本を訪れたビールス保菌者たち
今年二〇二〇年当初は、SARSで中国広東省などに猛威を振った時の六倍もの多くの観光客が訪れる予定だった。昨年来、韓国旅行者激減を中国からの旅行者で埋めようと期待した。中国からの富裕層旅行者たちは、個人旅行で結構来てくれたが、新型ビールスのお土産もあるようで、プリンセス号でない経路から「分別できない経路」で特効薬がない二月十日あたりから日本国内で「草の根運動」の如く頭角を現し始めた。現在日本の感染者は、中国から日本専用機で五十三名、巡遊船からは三百五十五名に加え、巡国内感染者が二十九人と増え続けている。新型ビールス感染者の検査や治療に際しては、通常の患者と空間的に分離する優先が必要なため、間もなく施設の不足が懸念されている。
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