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特集記事

Vol.231 -- 2019 年 07 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第百二十二回 バス停留所には名前がない

カリフォルニアの交通事情
 米国の常識は日本の非常識か。今回は、米国カリフォルニアの路線バスのお話をしよう。サンフランシスコからサンホセまで、大体百キロくらいと思うが、北から南へ三つの郡(サンフランシスコ、サンマテオ、サンタクララ)がある。サンフランシスコ空港とスタンフォード大学は、サンフランシスコ湾入り口内から南下する湾内に沿って、それぞれ二十五キロ、五十キロくらい南にある。シリコンバレイは湾南が閉じ、湾南のパロアルトと対岸のフリモントからサンホセを越す馬蹄形の工業地帯を言う。
 シリコンバレイに勤務する殆どの勤務者は、自分の車で通勤時間一時間以内の場所に住んでいる。路線バスの乗客の多くは三、四十分間の乗車をする学生や老人や低所得の労働者である。ここの路線バスはサンフランシスコ市内以外では通勤通学時も満員になるときは少なく、州や自治体の社会事業と言うほかない。でも通勤時間帯には高速道路が自家用車で混雑する。日本のように雇用者が従業員に交通費を支給する制度が米国にはなく、遠くから通勤することは少ない。


バス停留所の名前と時刻表
 米国の路線バス停留所は、バスが「走る通り」とこれに「交差する通り」の名前の対で表わされる。日本のように、「病院前」のように施設名を使うことはないので、停留所には名前がない。路線バス標識には、路線名と停留所番号と問い合わせ電話番号が表記されているが、時刻表はない。日本のバス停留所の時刻表やQRコードは技術発達の恩恵であり大変便利だ。しかしスマートフォンでウェブ検索すれば、時刻表は見ることが出来る。

路線バスの運賃
 サンマテオ交通局の運賃は大人、小人と割引(障害者と年長者)がそれぞれ、二ドル二十五セント、一ドル一○セントである。バレイ交通局の幹線は二二号線と急行五二二号線の二十四時間サービスで運賃は大人、小人、割引がそれぞれ二ドル五十セント、一ドル二十五セント、一ドル、急行運賃は、それぞれ五ドル、一ドル二十五セント、一ドルと言う値立てになっている。急行路線の停留所は普通路線の三分の一位になる。

乗車時の運賃支払い
 路線バスの運賃支払いの第一は「パスモ」のような「電子カード」、第二は車内でも発行する「一日カード」、第三は乗車時の現金清算を「つり銭カード」で行う方法だ。運転手が乗客に「現金のつり銭」を渡すことはない。
 障害者も年長者も厄介な「割引申請」をせず、乗車時に自己申告で小人と同じか低い運賃を払う。米国では「年長者とは六十五歳以上」だが、運転手は証明を求めない。大切なことは、割引を受ける乗客も運賃を負担することなのだ。日本の「割引乗車証制度」では、独立法人を作ることの余計な政府の金がかかる。年長者の運賃支払いが認知症予防に大きく役立つ。


交通機関への自転車の積込
 カリフォルニア州では環境保護と健康増進のため、公共交通機関の車内へ自転車の持込みを許している。サンフランシスコとサンホセ郊外を結ぶカルトレインは、二階建て六両編成の客車の先頭車が自転車持込み車両になっている。路線バスではバスの最前部に自転車をくくり付ける支持具が二台分付いている。当然ながら、カルトレインのパロアルト駅からスタンフォード構内に行くシャトル(送迎バス)は、自転車を運んではくれない。

障害者の乗降
 米国の路線バスは日本に比べるとかなり大型で、障害者のための乗り口昇降装置が各車についているから、日本の路線バス運転手のような苦労は無い。運転の面でも昔から「自動変速」が付いているので、スクールバスなどの女性運転者の負担を減らしてきた。一方、「下車ブザー」などは無くて、大昔日本にあった「都電の引き綱」と言う、鋼鉄製のひもを手で引いて鈴を鳴らす。何か原始時代に戻った感じだ。路線バスは片側二車線以上の道路を走るほか、歩道に十分な幅がある場合は、風雨よけの囲み(壁に全線の路線図と他の交通との接続情報も貼ってある)と堅牢なベンチや大きな円筒型のごみ入れも置いてある。

運転手と乗客との会話
 車内には優先席の説明などを英語、スペイン語、ベトナム語等で明記してある。前扉から乗って運賃を払い、後扉から降りるのが原則である。
 運転手には顔見知りの乗客が沢山いるらしく、大声で日常会話をしている。でもバスは日本のように商業広告を流さない。乗客の多くは下車のとき、ありがとうやさよならを言うのが普通で、人間味を感じる。運転手は「毎度ご乗車有難うございます」を決して言わない。日本の運転手は、交通企業の営業もするのかな。

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