特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百二十一回 白タクと民泊のシリコンバレイ
現在世界中に広がっているウーバー(白タク)やエア・ビーアンドビー(民泊)などは、米国サンフランシスコ地域で始まった商売と言われる。すでに開業して十年以上も経ち、利用客は世界に拡大している。日本では白タクや民泊という商売は既存産業を保護の名目で規制が厳しい。私の友人は頻繁に日米を往復する。彼はサンフランシスコ空港から二十五マイル(四十キロ)ほど離れたパロアルトに住むので、自宅と空港の間の交通機関としては高価な順に、タクシー(八十ドル以上)、シャトル(三十五ドル程度)、鉄道とバス(十ドル以上)、友人による送迎がある。友人による送迎以外は、予約や公共交通の間隔で時間が拘束される。彼が言うに最近はスマートフォンの地図上でウーバーの予約が便利で安価だ。
私は日本からシリコンバレイに旅行したとき先月初めてエア・ビーアンドビーのウェブに表示される民泊を利用した。気候が温暖で快適なカリフォルニア州には米国内からも海外からも多くの人々が旅行するため、ホテルなどの宿泊費は夏季に高騰する。一例として、昨年十一月に一泊五十ドルだった空港付近のモーテルは、今年六月には百ドルでも部屋が無い。観光で繁盛するサンフランシスコから車で一時間ほど離れたシリコンバレイ地帯には、特別の観光場所は無いものの、ビジネスホテルは表向き百五十ドルでは泊まれない。これに比較すると、自宅や別棟を民泊にしている場合は、一泊が数十ドルから宿泊できる。
この四月初旬に二週間後のシリコンバレイ旅行をする準備を始めた。ユナイテッドの航空券は十万円ほどで手に入った。今回はエア・ビーアンドビー組織の民泊を五泊予約したが期待した交通の便が良い一泊五十ドル以下と言う宿は探せなかった。安い宿は二ヶ月ほど前に予約が必要と言う。エア・ビーアンドビーには日本語対応のウェブがあった。地域のグーグル地図上に宿の印が付いており、拡大すれば地番や宿の外見写真が見られる。私は自分の車をパロアルトの友人宅に置いているので、となり町のマウンテンビュウの宿を選択した。パロアルトはスタンフォード大学がある人口六、七万の東京本郷のような町、マウンテンビュウは人口七、八万でNASAや海軍の飛行場があり、グーグル本社その他がある町だ。
宿泊する家は以前私が家を持って住んでいた近くなので、バス停留所や店など街の様子は熟知している。その家はエルカミノ通りと湾岸道路の交差点から分岐したミラモンテ通り沿いの小学校の向かいに建っている。その家は二軒長屋で私が宿泊する棟には部屋が三つあり、すでに二部屋は二人の男性が宿泊していた。家の内装から七十年位前に建てられたらしい。毎日の様子からこの二人の男性はシリコンバレイに来て働く技術者だということが分かってきた。二人にテレビを見たり談笑したりしている様子はない。その一人はトニーと言い身体は大きく口数が少なく、ペンシルバニアから来てグーグルでソフトウエアの仕事をしているという。夜中働いていることもあり、週日なのに部屋に居ることもある。二人とも冷蔵庫に多少の食べ物を入れているくらいで、基本的には外食の模様だ。もう一人はベンと言い、やせぎすでかなり若いようでレンタカーと見られる白い車を使っており、私が着いて三日ほどで引越した。そしてトニーも四日目に友人のところに合流すると言って引越して行った。最後の二日、私一人だけがこの家の住人となり、次の宿泊客は来なかった。
六十年ほど前米国でトランジスタが実用化されたとき、ここに多くの半導体工場が建てられ、シリコンバレイは産声を上げた。半導体の生みの親であるショックレイはトランジスタ工場を建てた。それ以来、多くの半導体企業と次々と新しい先端産業が誕生した。初期にはハードウエア開発が中心、近年はソフトウエア開発やDNA研究と有能な科学者や技術者が来るため、不動産が不足して住宅やアパート家賃が上る。しかし環境と住民生活の保護のため、日本のように次々と高層住宅を建てることはしない。シリコンバレイのハイテク労働者は、エア・ビーアンドビーが提供する、より安価な宿を一時的な居住地として移動する。こうすれば日本のように空き家が増えることも無い一方、民泊の規制は大幅に緩和する必要がある。私がマウンテンビュウの一軒家は、二〇〇七年に八十万ドルで売ったが、二〇一四年には百二十万ドルに値上がりした。平均年率七パーセントで値上がりしたことになる。その頃、地域のアパートの家賃は、平均でも千五百ドルくらいだったから、一軒家を借りて家賃を部屋割りする傾向は強まる一方だ。
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