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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百十九回 改元大休日を考える
安倍政権の閣議で決定した「改元十日間大休日」は、大きな波紋をよんでいる。第一は公共サービス事業の「要員確保」、第二に災害発生に対する「救助計画」、第三に「内閣独断による大休日決定」などであろう。
改元大休日の効用
今回の「改元大休日」では四月二十七日から五月六日までの連続十日間に及ぶ祝日休日が実施され、その期間、公共サービスの現状の操業維持が困難と予測されている。内閣府は国内のサービス事業に対して通達を出し、国民の生活に不都合が生じないよう協力を要請するとしている。この実施を、又とない「大災害に対する実験」と見る筋もあろう。しかし、今回の「大休日」では、直下型大地震、サイバー攻撃、細菌攻撃、原発災害、大火山爆発、ネットサービスなどにより生じる「生命線(燃料、水、電気など)の分断破壊」は起らないため、これらの最も危惧するべき災害に対する、防備耐力の実験にはならない。
日本の大都会は、米国の大都市であるニューヨークやシカゴのような二十四時間の都市活動はない。一方、燃料、水、電気などの供給の断絶に対するサービス活動の「時間許容度」は数日程度が限界だと思う。したがって、日本全体が十日間の祭典休日に置かれると、通常の都市機能は持ちこたえられなくなるだろう。
日本人の休暇取得
最近は多少改善されたとは言え、日本では被雇用者の基本的権利は十分守られていない。とくに労働環境では、「労働時間」と「休暇取得」が日本では無視されていることが多い。この二つに加えて「賃金」は、雇用契約を結ぶときの基本的要素である。これが守られない最大の原因は、雇用者にも労働者にも労資契約概念が希薄なことである。神の下で人間は平等だと聖書に謳われている欧米キリスト教社会でさえ、雇用者より労働者の立場が強くなったのは、十九世紀後半の産業革命のあと、労働組合が出来て労働者が集団として雇用者と労働条件を交渉する権利を獲得してからの事である。
おしなべて、日本で働く者の労働時間や休暇取得の契約が守られない現状に対して、政府は「年間の連休回数」をどんどん増やし、その前後に有給休暇をつなげることを奨励している。昨年は、三日以上の連休が十回あった。有給休暇の日数は、日本では現在法定で十日あり、勤続年数により増加する。国家祝日十五日の日本と、年間十日前後の国家祝日でも長い有給休暇が取れる欧米とを比較すると、休暇のとり方に関して、「個人の自由の尊重」の度合いが異なると言わざるを得ない。世界的に国民が長い休暇を取る時期は、国の伝統的な宗教の行事と、独立や建国記念日であろう。日本では年末年初と盆に長い休暇を取って生まれ故郷に帰る習慣が定着したが、収入格差と情報革命の影響でこの習慣が崩れつつある。米国は、独立記念日、感謝祭、クリスマスを中心に長期休暇をとる人が多い。そのような休暇に旅行者は激増し、飛行場には長蛇の行列ができる。米国の国内便は国際便のような大型機は一般には使用しない。その点では、日本の新幹線一列車の輸送能力は大型ジェット機の五倍分も相当する。東海道新幹線の列車は十分間隔ほどで運行されるが、米国の航空便は平行に飛ぶ便を入れても数十分おきにもならない。東京の山手線や地下鉄は、少なくとも数分おきには運行しているので、世界一多くの人々が移動することになる。
長いものに巻かれる
中国文化の強い影響を受けた日本では、孔子の説く儒教が道徳の基本になり、現在も社会での立場(年齢、立場、男女、官民など)による上下関係の優位差が色濃い。太平洋戦争が終わって七十年以上も経つと言うのに、有給休暇は相変わらず「取らせていただく」と言うのが日本の常識だ。日本では今なお、労資の雇用契約は実効的には平等ではない。私が非常に残念だと思うのは、政府と国民が交わす書類に使用される用語は、明治時代と変わらない「官尊民卑」を表すものが多い。例として、「納付」、「還付」、「交付」、「返納」に始まり、明治時代の文面が残る六法全書などには随所に見られる。民間人が作成する法的書類には「収入印紙」が必要で、政府が発行する書類には収入印紙が不要なのも「官尊民卑」の名残だ。現在の議会で使用される「議会用語」も古さの証である。共に近代化が望まれる。
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