特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第百十八回 働き方改革の成否
二〇〇六年に発足した安倍内閣は教育基本法改正を残して敗退、二〇一二年民主党の敗退で捲土重来と返り咲く。その間、営々と積上げた内閣人事局構想が二年で稼動し、官邸は官僚幹部の人事権を手に入れた。すなわち官僚が閣僚に忖度する地盤が出来上がった。官僚の頂上に上り詰めるには人事院ではなく官房政治の舞台で認められる必要がある。これが数年来、森友学園と加計学園の便宜と言うことで財務省や文科省が取りざたされた元凶になる。
一方、厚労省の所管による毎月勤労統計で、本来のデータ収集とその範囲やその統計処理手法が歪められた作業が始まったのは、調査によると十数年前の小泉政権時代と言われる。昨年末、安倍政権に対する国会質問から統計作業の実態が発覚した。国会の質疑を視聴していると、動的に変化する環境の中で調査対象の経済活動を統一的に把握することは容易でないと思われた。国会で質疑を行う双方が、状況を適切に理解しているとは思えない。
働き方改革の行く末い
本来被雇用者を法的に保護し権利を守るはずの「労働基準法」が遵守されていない。「労働基準法」に理念が記述されても、実施する段階で、正規採用の労働者以外の、派遣労働者、随意労働下の専門職労働者、勤務医師(平均月間時間外上限百六十時間)に対する労働時間上限や有給休暇の条件が、労働基準法で定める条件から外れている。無理は長続きしない。
私が米国で三十年間現地従業員として働いた経験でも時代と共に雇用契約が変遷してきた。一九九〇年頃には米国のIBMやヒュレットパッカードのような経営が安定した先端技術大企業が、景気の急激な変化のため、社員を定年まで雇用し続けるのが不可能になり、「永久雇用」と言う言葉は消えた。米国では雇用者側に立つスタッフは年俸制、一般職は時給制で働き時間外は別に支払われる。年俸制は会社福祉が付くが時間外賃金はもらえない。時給制は会社福祉が無いが組合が支援する。そのほか契約社員(コンサルタント)が高い時間給で雇われるが雇用者からの福祉はない。米国では労働組合は技能者が組合員で、雇用者と団体交渉をし組合員の賃上げ交渉をする。しかし年俸者には雇用を守ってくれる支援は無く、上司とパーティなどでうまく付合い、雇用を保つ努力が必要になる。しかし日本のような赤提灯の上下関係は無い。米国では雇用と解雇は日常茶飯事になる。
米国の労働力不足
一九六〇年代までは米国の人口の八五パーセントは白人で残りの殆どは黒人だった。ベトナム戦争の頃、米国では消費活動や黒人を中心とする民権運動も盛んになった。米国でも個人用コンピュータや電子製品が量産され、生産労働力が不足するようになって来た。一九八四年頃になると移民法を改正して、安い労働力を移民に頼るようになり、不法移民も余りとがめなくなった。そのため、メキシコや中南米からとアジアはフィリピンからの移民が激増した。日本人も相変わらず良く働くので、米国政府の日本人移民割り当て数は多かったが、応募は殆どが女性で、この数に満たないことが多かった。
トランプ大統領の祖先は白人移民で、東部や中西部に住む、技量が低い不満な白人たちを取込めば大統領選で優位に立てると思った。過去には白人であれば容易に移民できたが、現在は技量が無ければ難しい。トランプ大統領は輸入を減らし、その分米国内生産を増やすと言うが、国内生産は高価で割が合わない。それでもと言うならば、莫大な投資をしてロボット生産をするしかない。すでに自動車工場ではこれが進んでいる。米国も高齢化社会で、金がある老人たちは介護施設で主にラテン系人女性(北中南米出身者)の介護職の世話になる。米国の白人たちは介護産業で働きたがらないから、彼らに仕事は無い。米国が金を稼ぐには、他の国に戦争を仕掛けたり、高価な武器を売ったりするのが手っ取り早い。それか他国に出かけて行って金融や保健サービスでもやるのが手っ取り早いかもしれない。
多様な働き方
多様に働き、労働条件も健全に守られると言うのが次世代の働き方だと思う。実態労働もよし、ネット労働もよし。価値を生み出せるなら、対価を与えられるべきだ。柔軟性ある働き方を欧米に学ぶべきだ。
我々日本社会に足りないのは契約概念、これが守れる国の法制度も不十分だ。日本は原発の輸出だけはするべきでない。我々人類は、放射能を御する技術を十分持っていない。
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