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特集記事

Vol.223 -- 2018 年 11 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第百十四回 カタカナ外国語単語の氾濫

日本の文字文化
 古代日本の王は中国の後漢書にも記されている。日本の古墳は西日本を中心に東北地方中部まで三世紀頃から七世紀頃まで作られた。四世紀には中国東北部の高句麗や朝鮮半島の百済と新羅から多くの人材が技術や文化を持って来日したが、日本のヤマト政権の文書作成を担当したのは彼らだった。日本の地名や人名は「漢音」を使用して漢字で書かれるようになった。八世紀初めに二つの歴史書が編纂された。古事記は漢字の音訓を使った万葉仮名を使って書かれた日本文で、日本書紀は漢文で書かれた。数十年後の八世紀半ばには、万葉集も万葉仮名で書かれている。九世紀には万葉仮名から平仮名が、漢字の一部を使った片仮名が表音文字として普及し、十一世紀初めには定着した。この平安時代中期に源氏物語は漢字と平仮名交じりで書かれた。日本人は、漢文を理解し、片仮名と平仮名を表音文字として使うに至った。江戸時代の後期に幕府の遣欧米使節団が学んだ結果、明治維新で西欧文化による近代化政策が推進され、国際間で盛んに人事交流が行われるようになった。日本語のローマ字表記も検討されたが、軍事政権下にあるため否定された。しかし、太平洋戦争後までは、外国事物の表記は主にカタカナで、それ以外にはカタカナと平仮名が標準的に用いられるようになった。しかし公用文書には漢字とカタカナが使用された。

外国語単語の積極的な取込み
 すでにわれわれが「使っている単語がある」のに、その外国語単語に「別の意味を与えて使う」ことも増えてきた。例えば、第一の例として、「牛乳とミルク」は、前者が店頭商品やその中身そのものなのに、後者は飲食店でガラスのコップに入れて温められ砂糖まで加えられたものを指すことがある。でも正確には、両者に差はないはずだ。第二の例は、「領収書とレシート」で、前者は宛名を明記し金額の受取人の名前と押印をしてあるものを言い、後者は金銭登録機が印字した宛名がない収入記録を言うらしい。欧米では税務上もこの両者に差はないが、日本では後者は通用しないらしい。第三の例は、ここ七、八年報道機関が誤解して使うようになった、「言う」と「コメント」の意味の混同である。三省堂の英和辞典では「コメント」の意味は「注釈する」、「批評する」と言う意味で、単なる「言う」と言う意味はない。ましてや、自分のことをコメントするなどとは言わない。テレビで報道が間違って使用したのを、みんながまねしている。

カタカナ表記の氾濫
 カタカナ化した外国語単語の使用は、日本の欧米指向の結果、増加の一途にある。マニフェスト、ガバナンス、ピンポイント。ワンストップ、コメント、インバウンド、リピータ、フルネーム、コンセルジェ、カミングアウトときりがない。こんなに多い外国語単語は、誰が広めたのか、本当に必要か、正しく使われているか。リピータ(中継装置)、インバウンド(外国へ行く客が国内向けを指定する)等には、現在日本で使う意味は見当らない。「姓名」と言わず「フルネーム」となぜ英語で言うのか。新しいのは、「インクルーシブ」と言う英単語で、本日のテレビニュースでは「障害のあるなしにかかわらず…共に同じ内容を学ぶインクルーシブ教育…」この単語の意味は「包括的」だ。なぜ日本で適切な新語を作らないのか。
 言論の自由だ、どんな言葉も使う権利がある、それもごもっともさま。でも「ワンコイン」も「ワンボックスカー」も英語人(日常英語を使用する人)には理解できない。英語「ペニー」は我々日本人には聞きなれないが、英語人が使う意味は、英貨一ペンスや米貨一セントのことだ。我々日本人は休む暇もないほど忙しい。だから、正しい日本語を知っていても、言いやすく短い外国語単語があれば、躊躇なしにその外国語を使うようになった。しかし多くの日本人が伝統を守ることが重要だと考えるならば、既存の日本語を使った方が良いのではないのか。どこの国でも俗な用語は数多ある。しかし欧米人は、我々日本人のように、「短縮語」で「原語」がどんどん駆逐されたり、意味もわきまえないで次々と「外国語」の語彙を増やすことはしない。それは一例として、ニューズウィークなど米国の週刊誌に使われている単語を見ればすぐわかる。日本語をもっと大切にしよう。

先月号記事の訂正とお詫び
上段第一節の最後から四行目「就職が困難な雇用者」を「就職が困難な被雇用者」と訂正します。

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