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特集記事

Vol.220 -- 2018 年 08 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第百十一回 国内労働力不足の緩和

 日本では人手が足りないと言われる。時代や景気が変われば、それに応じて求人側と求職側が望む人材の職種、専門技能、働き方などは変化する。当然ながら求職側は、高賃金、十分な社会福祉、安全な職場、地域通勤、都合が良い働き方を望む。求人側は少ない経費で、高能力、安定人材の雇用を考える。求人側と求職側との要求は半ば相反する。とくに厳しい(きつい、きたない、きけんな)環境の職業(土木、建設、介護、看護、警察、警備など)だと、社会にとって必須でも、求職側は優先的には選択しない。さらに最近は、漁業、農業、林業、畜産業、飲食業、コンビニ店舗、宅配送、保育、教育の人気が落ちている。少子化による労働人口の減少に対して「求人に対応できない」状況を、人工知能など「新技術の活用」と「外国人労働者の雇用」により打開しようとしている。

 昨今の国内労働市場では、日本の新卒の就職率は非常に高いが、諸外国と比較して、日本企業では「生産性が低い」ようだ。朝の通勤地獄も相変わらずで、通勤者は朝から疲れた表情だ。電通でも、NHKでも若い従業員の過労死が起こった。長時間労働は生産性向上にならない。「過労症候群」は社内伝染病だとする説もある。「切腹」、「神風特攻」、「過労死」は大和魂の伝統だが、生命を捧げる意味では、イスラム国の「アラー」精神も似ている。上司に触発された「至上命令」は森友加計情報捏造をもたらし、日本の自動車産業と鉄鋼産業のデータ捏造事件は伝染病のように蔓延した。働き方改革では、自民党政権は求人側の代表である経団連の要求に従い、先進国にない内容の派遣労働者制度や裁量労働制度を推進し、「過労死」への歯止めを取払った。厚労省が外部業者に委託した労働実態調査には多くの捏造データが使用され、歪んだ結果が出た。欧米では同一労働同一賃金がすでに常識だが、日本では雇用契約の違いが賃金格差を生む。安倍総理提唱の「一億総活躍社会」は、高齢者や女性の雇用が賃金格差を助長し、「過労死」の増加が危惧される。

 厚労省は一九九三年に始まった外国人技能実習生制度の対象分野(漁業、農業、建設業、機械製造業)に介護産業を追加した。日本政府が国際協力を目的に作ったこの制度は、日本政府と実習生を出す外国政府との間に、外国側の送り出し機関と日本の受け入れ側機関が仲介者として設けられる。これらの代行機関は実習生にさまざまな「金銭的負担」をもたらすと言われる。日本側の実習生の受入れ企業の中には、低賃金で「労働力不足」を補う目的でこの制度を悪用し、「実習生への待遇」も当初の受入れ条件と異なる(長時間労働や経費差引きなど)こともある。日本政府は代行者に責任転嫁せず、実情を徹底調査して改善するべきだ。現在二十六万人が働いており、実習期間は通常は三年だが五年間まで延長可能である。二〇一七年に開始した介護実習生制度は、日本語と母国語(ベトナム語・英語・ミャンマー語・中国語・カンボジア語)で書かれた介護実践の教科書を使って行われる。来日一年以内に日本語試験に合格すれば、最長五年間介護施設で働ける。初めての介護実習生は中国から来る。日本の医学用語には難しい漢字が多い。例えば、「褥瘡」(床擦れによるできもの)は、明治時代の遺物だ。介護実習生は中国人ばかりではなく、医療分野の日本人にとっても、このさい思い切って用語を簡略化したらどうか。

 つい先頃、日本のエネルギー産業の技術系管理職として働く甥が訪ねてきた。彼は同社のシンガポールや中国の工場でも働いていた。彼の日本工場で働く技術系の外国人は中々優秀で、数では筆頭が中国系、次はインド系で、今や技術系外国人なしではやって行けないと言う。二子玉川に本社を移転した楽天には、八千人余りの従業員が働き、かなりの数の外国人がいるらしい。今回日本政府が制度化するのは、五年間期限付の職種限定「外国人労働者」である。米国ではカリフォルニア州やテキサス州で、農作物の収穫にメキシコなどから多数の季節労働者を受入れている。日本は米国と違い、外国人が永住ビザを取るのは容易だが、市民権を取るのは世界一難しい。米国では永住ビザを獲得して五年経つと、米国帰化の受験資格ができ、合格すれば米国市民になる。日本国の将来は「民族多様性」にある。「賢い移民政策」で外国人を受容するべきだ。しかし、日本は他国の乗っ取りを絶対許してはならない。

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