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特集記事

Vol.219 -- 2018 年 07 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第110回 日本で民主政治は機能するのか

 我々が口にする「アメリカ合衆国」と言う近代国家が発足してから、まだ二百数十年しか経っていないが、「民主主義」が行われている法治国家だと認識されている。さて、十七世紀に始まった江戸幕府による封建政治は、一八六八年の明治維新で大政奉還と版籍奉還され、天皇が内容を決めて国民(臣民)が大日本帝国憲法を頂戴した立憲君主制の二院制議会政治へ切り替わった。現在の新憲法にはない側面がある。それは天皇が統治権の全てを握り、文武官の任免と陸海軍の統帥、官職、講和や条約の締結など帝国議会が関与できない大きな権限をもち、軍の統帥権は内閣から拘束されず天皇に直属していたのである。わが国「日本」は、太平洋戦争に敗北する七十余年ほど前まで、天皇を戴いた建国二千六百余年の歴史がある大日本帝国であると、当時の国民(臣民)は学校で教えられてきたが、大日本帝国は、民主主義が行われる法治国家と言えるだろうか。ウィキペディアによれば、確かに大日本帝国議会は、その重要な意思決定を、帝国憲法に従って行うものの、天皇が帝国議会が関与できない軍の統帥権はじめ多くの重大な権限を持つことは、「民主主義の理念に合わない」と判定される。したがって、帝国憲法で規定された大日本帝国の国体は民主主義ではない。有権者の資格が性別や年齢や社会的資格や収入が条件となることは便宜的だと考えられる。

 さて、アジア世界でいち早く近代化を目指した十九世紀後半の明治政府は、外交、経済、技術、防衛の全ての面で欧米先進国と競争して生残るしか道はないと「富国強兵」を国是と考えていた。赤道より北の太平洋地域は、海であろうと陸であろうと、十六世紀末以来、ポルトガル、スペイン、オランダ、英国、フランス、米国の間で植民地の分割がすでに完了していた。十九世紀以降の北アジアでは、英国、米国、ドイツ、ロシアが中国と朝鮮の縄張りを争っていたが、日本もこれに介入して、一八九四年日清戦争で勝利、一九〇五年に日露戦争にも勝利して、戦うことに自信がついた。二十世紀になると、日本の技術と工業生産の近代化も軌道に乗り、国内で鉄道や基幹産業が急速に拡大した。欧米諸国との軍事同盟も手についたが、第一次大戦のちの金輸出解禁と金融恐慌で世界経済は大混乱、一方国内政治が不安定になり、中国で勝利した日本陸軍の関東軍が暴走、軍部の台頭で政党内閣が崩壊して日本は国際連盟から脱退して孤立し、日独伊枢軸が形成され一九三七年に日中戦争が始まり、一気に一九四一年の米国ハワイの軍港へ奇襲をかけた。中国東北部や朝鮮は日本からそれほど遠くなかったが、工業資源を求めて南シナ海への旅は、航海の長さと膨大な量の燃料とが必要で、燃料供給地に到着する前に殆どの海軍戦力は最初の半年で撃沈された。そんなことは分かり切っていたが、参謀本部は面子に固執し、戦線の捏造と戦果の隠蔽を続け、虚偽の新聞記事で国民を騙し続けた。資源不足でも強行した太平洋戦争は一九四二年に敗戦が明白となっても続けた。国民生活は生活物資の不足で困窮したが、敵となった米軍にも多くの犠牲者が出た。敗戦の一年前の沖縄戦は戦う兵器もなく完敗し、翌年二度の原爆投下で人類初めての放射能災害が発生して戦いは終わった。兵士や民兵の生命は、イスラム国の兵士と同様、天皇のために玉砕することだと定められていた。

 当然の結果は戦争に大敗、米国統治下で「新憲法」が発布され、国民の期待は民主政治ではあったが、七十余年が経っても日本に民主主義が定着しないのは何故か。察するに、第一に事大主義の社会風土が根強く、第二に社会主義政治活動を恐れた反動で、保守政党が定着、第三に自民党の金権政治が止まらず、第四に国民の政治関心が低いなどであろう。何故か日本に社会主義は根付かず、有権者それも女性の安定政権志向が強調される。しかし、どんな政党も長期継続すれば、傲慢になり汚職が増えるのは世の常である。これを避けるには、政党の継続期間を制限する法制化が必須である。一方、野党は百年一日のように、与党の政策に代案なく反対するのは、政治家がやることではない。日本の政治がお粗末になりがちなのは、議員に投票した有権者が「当選議員の結果を確かめる責任」を感じないことだ。そして最近の政権は政治倫理も約束も守らず、ただ自分の独善を押し通すばかり、国にとって最も大切な情報を役人に廃棄させ改ざんさせる圧力をかける、あってはならないことがまかり通るようでは、「責任者」は舞台から降りるしかない。

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