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特集記事

Vol.217 -- 2018 年 05 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第一〇八回 新技術の悪用が災害を生む

 時代と共に開発される新技術が当初の目的以外に応用された結果、災害が起る。ウェブに掲載されていたカラパイアの情報では、ダイナマイト安定剤技術から〈軍用爆弾〉、大豆の開花促進剤が〈オレンジ剤(ベトナム戦化学兵器)〉、カラシニコフ銃(簡単安価製造容易)が〈テロ武器〉、唐辛子スプレイ(郵便配達の犬よけ)が〈テロ武器〉、飛行機(非軍事目的)が〈軍用兵器〉、中性子連鎖反応が〈原子爆弾〉の原理に悪用された。

世界を変えた半導体技術
 機械技術の進歩は「何倍」と言う変化、電気技術の進歩は「何乗」(複利の原理)と言う変化で世の中の機能を変えた。従来電気回路の入切に使用された継電器(リレイ)と言う「スイッチ」、電気回路の信号の増幅に使用された「真空菅」は、一九五〇年代の半導体集積回路の出現で、デジタル伝送で高速化し増幅率は大幅に増加した。多数の情報(データ)の「保持」(記憶、メモリ)が容易になった。トランジスタの発明から約六十年が経ち、同等機能の半導体チップの面積も百万分の一ほどに縮小された。新しい半導体部品で作った回路で出来上がったPC(個人用計算機)の時計速度は当初の数メガ(百万)ヘルツの千倍を超えている。単純に言えば、計算機の演算速度が千倍になった。計算機の大きさや重量も増えてはいない。そしてデータを長期保存したり書換えたりする固定記憶装置の容量も百万倍くらいになっている。

ドローン(無人ヘリコプタ)
 一九七〇年頃、三宮の高架下にある模型屋で五十センチほどの無線操縦の内燃機関付きヘリコプタが五万円ほどで売られていた。一九八二年頃私は米国カリフォルニア州シリコンバレイでマイクロ波通信機の開発設計をしていた。航空分野の雑誌には、その後米国のイラク攻撃に使われた小型無人偵察機の写真が載っていた。一九九〇年頃、米国の電気製品店フライズに日本製小型電池駆動の無線ヘリコプタが十ドル位で売られていた。これはプラスチック製で大きさが二十センチほどだったが、のちに半分くらいに小型化し値段も数ドルになった。しかし電池の重さと容量から飛行時間は数分だった。二〇一〇年、世界の無線操縦ドローン市場の七割以上は中国製品になったと言う。この頃、日本では持ち主不詳のドローンが首相官邸の屋上に墜落した。テロリストが未登録のドローンを飛ばして攻撃する時代に入った。このドローンで政府や企業の秘密情報を盗んだり、化学兵器で危害を加えることは容易だ。

他人の誹謗をばらまくSNS
 携帯電話やスマートフォンでは、SNS(ライン、ツイッター、フェイスブックなど、インターネット上で同士との関係を広げるサービス)には特徴あるサービスが多いが、その便利さが裏目に出て、利用者の間で仲間同士のいじめや誹謗が起りやすい。結果として、日本では学校の生徒がいじめや殺害に巻き込まれる例も少なくない。トランプ大統領の意志伝達手段は、報道記者との会見よりもSNSである。

ロボット技術で自動運転
 産業用ロボットは半世紀以上前から生産現場で活用されている。ダビンチなど外科手術用手先は実用されているが高価だ。最近の日本では、人型ロボットが接客や介護補助に使われ始めている。接客ロボットには、客に対する個人認識と学習効果が必要になる。警備ロボットも公衆の場で試用が開始され、要注意人物の発見通報と現場対処の評価中だ。
 人間が交通機関(船舶、飛行機、鉄道車両、自動車など)を運転するとき、慣性が大きい交通機関の方向変更や加減速には、性能や周辺環境に応じた操作が必要になり、人間の運転能力では対応が困難なことも多い。半世紀ほど前から、大型タンカーや大型ジェット航空機や高速鉄道車両には、半自動や全自動の運転が採用されるようになった。昨今は自動車の全自動運転が目標となっている。とくに内燃機関を動力とする自動車では、環境保護と人為事故の回避の要求から、全電気化と自動運転化が製造側の目標になっている。
 自動車の自動運転はその製造各社がここ五、六年、北欧や米国の一般道路上を人間運転手付きで評価実験中と報告されている。今年米国アリゾナ州の一般道路上で、人間運転手付きの自動運転車が実験中一般車両と事故を起こした。原因は、周辺障害物検知レーダに死角があり他車を認識できなかったことだ。そのため米国におけるこの種の実験の中断が報告されている。このことは、自動車の安全な無人運転には「幾多の技術的課題」が残っていることが分かる。

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