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特集記事

Vol.190 -- 2016 年 02 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第八十一回 中国との貿易を止めても日本は困らない

 中国経済の真実「中国との貿易を止めても日本は困らない」と言う題名の新書本で著者は、二〇一三年日中貿易収支は対中輸出が日本GDP(国民総生産)の二・七パーセント、対中輸入が三・一パーセントに当たり、〇・四パーセントの赤字だから、中国への輸出を止めれば〇・四パーセントの黒字になると言う。ドイツや韓国の輸出額は彼らのGDPの四割くらい、日本の輸出総額は十五パーセント以下と元々低い。

 「中国との貿易中止」は日本経済に大きな損失を与えないと言うが、これは即断すぎる。理由は、日中それぞれが輸出する品目が大幅に異なる点である。日本の輸出は、より「単価が高い」技術的に高度な製品、すなわち、資本財の比率が高く、中国からの輸入は「単価が低い」食材や食品や低次元の加工品が多い。中国は当分の間「世界向け輸出に必要な資本財の需要」と「十数億の人口を支えるための工業製品の需要」が続くと考えられる。それゆえ、先に困るのは日本からの輸入に頼る中国側だと言う論理は一応理解できる。二〇一三年の日本の名目GDPを五百兆円とすると、輸出総額は七十兆円程度、そのうち中国への輸出総額は約十四兆円となる。参考のために、日立製作所の連結売上額は十兆円程度である。

 中国向け輸出総額と同等の輸入国を探すことは並大抵ではない。将来の日本からの輸出は、単純に考えれば、日本が買い入れた材料を雇用した労働力と設備で加工した「工業製品」である。労働力を提供する人口の何割かが中国からの輸入品を「生活のため消費」する。中国への輸出がなくなったり大幅に減ったりすれば、代替消費を他国へ輸出するか、日本国内での需要が必要になる。一方、中国から輸入していた分の食材や加工品は、日本国内で生産するか、一部をアジア諸国から輸入すれば良い。日本国内で生産する分が増えれば、雇用創生が起こり国外に流出する金が減り、自給率の点で望ましい。中国から輸入している商品の日本国内価格は、当然高くつくが、生産方法の工夫により意外に安く作れるかも知れない。米国は「資本財」だけでなく「サービス財」の輸出額(コンピュータのソフトウエア、店舗の経営方法、ネット学習など)も多い。「サービス財」は金を稼ぐための「思いつき」である。資本金は不要だが実際に試してみないと、世の中がそう動くかどうかは分からない。

 日本では本社で直接製造しない商売、外注や下請けと呼ばれるやり方は昔からあった。目的は利益率の確保と手を汚す作業の排除である。場合によっては、責任の回避が目的であることもある。
日本の電子産業は国内企業の利益率を改善するために、「付加価値が低い製品」を海外で調達しようと、米国をまねしたため、国内産業が空洞化した。その企業の利益確保は出来るが、国として雇用が減り作業者の技量も失われる。雇用の減少はその国の消費市場が縮むことでもあり、一旦これが起こると、回復することは困難だ。日本は多くの専門技術者と腕が良い職人を失った。

 日米とも一九八五年頃からインターネットに接続して情報をやり取りする個人用コンピュータ(PC)が手ごろな値段で使えるようになった。最初は事務所の業務に使用されていたが、電話とインターネットは携帯電話という移動できる情報端末で機能が一体化すると、人々は「PCと言う物理的なもの」ではなく、「情報をやり取りできる機能」に価値があることに気がつき始めた。

 人間の生活が「飢餓から解放」され「健康な生活」が一通りできるようになると、それ以上の生活に必要なのは「より贅沢なもの」ではなく、毎日の生活を「より快適に健康に生きる」ための「支援サービス」に、もっと重要な価値があると気付いた。それは障害者や年長者に「医療・介護・訓練」を与える支援である。支援を必要とする人口は増え続けている。これらの支援をする人は専門的な知識と訓練を身につける必要がある。日本は世界の長寿国になったため、年寄りの人口比は少子化とあいまって大きくなり続ける。日本では機器の自動組み立てに工業用ロボットを使い始めてから半世紀近くになる。生体型ロボットも数十年近く前にソニーの「アイボ」(犬)やホンダの「アシモ」(ヒューマノイド)として現れた。すでに修理サービス期間は切れたが「アイボ」を買った人は多く、ご老人にも人気がある。日本は世界に先駆けて、新しい需要を「医療・介護・訓練」と「自然災害救助」と言う「繊細な機能」の設計で能力を発揮する良い機会に恵まれている。そして開発された技術は、「サービス財」として世界に販売できる。

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