特集記事
徳川文武の「太平洋から見える日本」
第九十回 公共サービス網の障害
人口密度が高い日本の首都圏で、種々の公共サービス網のうち、鉄道、電力、通信などに障害が起こると、多くの混乱が生じる。障害の原因には、第一に地震・津波・洪水などの「環境災害」、第二にサイバーテロや放火などの「人為災害」、第三に機能不全(老朽化、管理不良、システム欠陥他)などが考えられる。
鉄道網
鉄道の機能は、行き先の決まった列車を選択して乗込んだ乗客を、目的の行き先まで時刻表を基準として運ぶことである。公共サービスのうち、鉄道の乗客輸送では日常的に大小何らかの障害が起こっている。首都圏の鉄道は、路線によっては通勤時間帯に数分間隔で運行し、何百万という乗客を首都圏の中心へ輸送している。ここ十年くらい、私鉄の相互乗り入れやJRの近郊路線を結ぶ「長距離運行」がさかんになり、より多くの乗客がより長い距離を移動するようになったので、各鉄道は運行管理を集中的に行うようになった。小から大までの人身事故や連鎖的混雑の中で、少ない遅延で運行することは鉄道会社の運行管理センターで行う「神業的調節」に依存している。後続の列車の遅延が予測される場合には、先行列車の運行を遅らせることにより乗客数を平均化し、事故の防止と乗降の混雑を緩和している。
電力網
電力サービスについては、この十月某日、めったに起こらないことだが、東京都内で約六十万戸が停電となった。原因は、その地域を給電する東京電力の高電圧電線が埼玉県新座で起こした地下火災だった。さいわい、迂回路に切替えて給電したことにより、停電障害は一時間ほどで復旧したと報道された。東電は日本国内で最大数の顧客に電気を供給している。東電の話では、この電線は三十五年前に敷設され、定期検査は担当者による「目視」だと言う。日本道路公団のトンネル内で天井が通行中の車に崩落して大事故が起きたことは、未だにわれわれの記憶にある。現在も「打音や目視」は、トンネルや橋梁の検査に実施されている。もっとも危険な原発で「維持管理」の手抜きや実情の隠蔽が日本では恒常的に起こる。多くの原発で定期的検査結果を改ざんしていたことも明るみになった。
通信網
通信サービスで「送る情報」は音声とデータ、「送る信号の形」はアナログ信号とデジタル信号、「情報を送る基地局」には「地上局」、「無線局」、「衛星局」がある。通信も電力と同様に障害を避けるために、網構造に接続され障害が起これば迂回回路へ切替えるよう設計されている。鉄道でも、東京メトロ乗入れ車両は、JRでも私鉄でも軌条幅が同じなら代替が出来る。ある国際電話会社の障害時迂回経路の太平洋側光ファイバー陸揚げ地点は、カリフォルニア州のレアルト(オーストラリア向け)とオレゴン州のユジーン(日本向け)にあった。国際電話の接続経路は第五候補まであり、主経路、迂回路(AT&Tと二方向)、衛星経路だった。
米国では電話故障や停電は毎年何回かあった。電話故障は年間平均数分以下と言うのが標準とされる。道路の地下を通る電話幹線が激しい降雨のため絶縁不良を起こしたり、高速道路や鉄道沿いの光ファイバーが工事で切断されたりする事故は時々起こった。冬が雨季にあたるカリフォルニアでは、激しい降雨が続くと、地盤がゆるいため丘陵の樹木が倒れ、地上の電線が切れる事故が発生する。歴史的にはオーストラリアから移植したユーカリは、西海岸の街路樹として至る所に高くそびえ、この枝があちこちで折落し、外皮が高所から道路上に落下して、電線を切断する事故がけっこう頻繁に起こる。一九八九年のサンフランシスコ大地震では、サンフランシスコ近郊を走る「サンアンドレアス断層」のおかげで、サンフランシスコ湾を横断している「湾岸橋(ベイブリッジ)」が崩落、北岸のオークランドでも高速八十号線が崩落、最も公共設備が古いサンフランシスコ地域では、電気・ガス・水道が完全復旧するのに半年近くもかかった。
このコーナーへのご意見やご感想をメール、FAX、おたよりにてお寄せ下さい。(送り先 月刊ハロー編集部)
その他の記事とバックナンバーのリンク
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年09月号 (Vol.293)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年08月号 (Vol.292)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年07月号 (Vol.291)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年06月号 (Vol.290)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年05月号 (Vol.289)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年04月号 (Vol.288)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年03月号 (Vol.287)
徳川文武の「太平洋から見える日本」あ -- 2024年02月号 (Vol.286)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2024年01月号 (Vol.285)
徳川文武の「太平洋から見える日本」 -- 2023年12月号 (Vol.284)
バックナンバーの目次へ