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徳川文武の「太平洋から見える日本」
第九十一回 外国人友人の連合いが日本で亡くなる
米国から長年知り合いの友人男性と彼の連合いの女性が、この友人男性の弟はカナダから来日した。彼らは、私が予約した箱根強羅のホテルに、二部屋に分かれて宿泊した。私と友人男性の弟が同室に宿泊した。彼ら三人は、日本語が理解できない台湾系の人だ。その女性は、私の友人男性と早朝に男女別の屋外温泉に入り沐浴中亡くなった。私の友人男性は浴場から先に出るとき、隣の女性浴場で沐浴中のその女性に声をかけたが、応答がないので浴場の外の休憩場で彼女を待っていた。私の友人男性は女湯の脱衣場から一人の従業員のような服装の女性が出てくるのを目撃し、そのあと一人の中国人らしき女性客が女湯の脱衣場に入りすぐ出るのも目撃したと言う。それでも連合いの女性は出て来ないので、この友人男性はホテル受付に連絡した。そして連合いの女性がうつぶせに温泉で浮いているのを発見したので、私の部屋に寝ていた弟を呼び、彼女を二人で引上げ水辺の床に横たえて蘇生を試みたが成功しなかった。この友人男性の弟は自室に戻り、同室で寝ていた私に、彼女が死にかけているから浴場に急行するよう報じた。私は着服して浴室現場に急いだ。
この連合いの女性は病院以外の場所で人が亡くなったので、ホテル受付の通報に応え、地元警察が検分のため現地に到着した。遅ればせながら地元救急支援隊も来た。警察は、亡くなった女性とこれを報告した当事者の友人男性とその弟、三人のパスポートの提示を求め死亡報告書を作成するため身分の確認を行った。警察では遺体を保管できないため、遺体は地元の葬儀屋に引き取られた。遺体は司法解剖のため葬儀屋から所定の病院へ送られた。警察では死因には事件性がなく溺死だと判定する死亡診断書を発行した。私の友人男性は、この女性が亡くなったことを彼女の遺族(四人の子供たち、男性一人と女性三人)に知らせた。葬式に臨むため、遺族は居住地の米国から成田空港経由で日本に到来する。故人の遺族たちは日本語が分からないため、米国大使館の紹介で、英語が通じる東京の葬儀屋で葬式をすることになり、小田原の葬儀屋に安置された遺体はこの東京の葬儀屋に移すことになった。ここまでの日本語と英語の意思疎通は私が行った。
遺族代表となった長女は、当初、母親の遺体を米国に移送すると言っていた。しかし、これには米国大使館から日本政府と航空会社に提出する遺体移動許可書を発行してもらう必要があるほか、多大の費用がかかる。結局、日本で火葬して粉骨を米国に持ち帰ることになった。合計六名(台湾系米国人やカナダ人たち)は、上野駅前の三井ガーデンホテルに宿泊することになった。ここは外国人宿泊者が多く、私も友人男性の依頼で同宿することになった。さて火葬には、故人が亡くなった箱根町役場から火葬許可証が必要になる。火葬許可証は、故人の遺族の直接申請や委任状を書き葬儀屋に申請を代行してもらえば発行される。今回のように、故人の遺族がまだ到着せず外国人が葬儀屋に代行申請を委任する場合は、故人のパスポートと委任する外国人のパスポートと両人の米国自動車運転免許証が同じ住所であることから、箱根町は故人の火葬許可証を発行した。火葬所は台東区の入谷にあり、東京の葬儀屋の担当者が同行した。葬儀には、私の友人男性とその弟、故人の遺族四人、台湾から駆けつけた故人の弟、九州と姫路から来た故人の異母姉妹たち三人の合計十人が集まった。火葬が終わり、この十人と私は葬儀屋のバスで葬儀屋に戻り解散、ホテルへ徒歩で戻った。遺骨は葬儀屋が粉骨にして遺族に届け、遺族代表は粉骨を持って米国大使館を訪ね、粉骨移送証明をとることになった。
私は、故人の異母姉妹たちを連れて、ホテルから近い上野のアメ横を案内、そのあと三人は九州と姫路へ戻って行った。故人の弟は、このあと台湾から日本への航空券を急遽入手してもらった友人への返礼だと言って、アメ横で「血行促進のエレキ絆創膏」を探し回った。携帯電話で台湾の友人とあれでもない、これでもないと、何回もやり取りし、望みの品物を五、六箱買っていた。葬儀のあとに、残った八人で上野駅前の居酒屋で飲食した。今回おどろいたことは、日本の米国大使館は、日本語が分からない米国人に出張通訳サービスをすると言う。故人の遺言により遺族はサンフランシスコで太平洋に散骨する。冥福を祈りたい。
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