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特集記事

Vol.202 -- 2017 年 02 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」 徳川文武

第九十三回 二〇二〇年東京オリンピック その恩恵と弊害

太平洋戦争で経済的と心理的に疲弊した大日本帝国と国民は、一九六四年東京オリンピック大会の開催により、次のような恩恵を得た。
・国際社会への復帰(新憲法の実践)
・スポーツ選手育成の充実(体力の向上と健康の増進)
・経済の再生(工業力と雇用の創生)
・カラーテレビ放送
・社会下部構造整備(新幹線、首都東名高速道路など輸送力増強と選手村、ホテル)
・建設された競技場の継続的利用(五十年以上)

 一九六四年オリンピック大会総費用は当時価格二百六十五億円(現在価格千二百億円)と言われる。競技場は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、長野県にわたった。また首都圏の自動車の増加により、東京都の路面電車は一九六七年に荒川線を残して廃止された。国有鉄道から蒸気機関車が消えたのは一九七六年、地域民営化は六つの旅客JRと一つの貨物JRへと一九八七年に分割された。

 さて二〇二〇年の東京オリンピック大会は、二〇一三年ブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会で開催が承認された。そこで東京都は、七千四百三十億円の予算で「小さくまとまったオリンピック大会」を提唱したが、現在の予算は三兆円になるとも言われている。そのときの大会予算額は、大会誘致を獲得するために箱物新築を極力避け「最少予算額」を名乗った。翌年、森喜朗元総理大臣を会長とする東京オリンピック組織委員会が発足した。

 東京オリンピックが決まる前の二〇一二年に、従来の国立競技場の管轄である旧文部省の下部組織、日本スポーツ振興センターはこの施設の刷新を進めており、設計事業者の選択も進めていた。新国立競技場の設計は公募したイラクのザハ女史のものに決定した。施行業者として大成建設が選ばれたが、当初の千三百億円の枠を越えて総工費は三千億円を超えた。一方、今回の東京オリンピックの紋章は有識者委員会で日本人の意匠が採用されたが、海外の博物館で使用しているものの模倣だと抗議が寄せられた。結局世論によりこの紋章は消えた。

 この頃から、新国立競技場の総工費が当初予算より大幅に高いことや紋章図案が盗用されたものと判断され、東京オリンピック大会計画について国民の信用が落ちた。二〇一五年に安倍総理大臣が事態を白紙撤回し、この会場の総工費千五百億円が目途になった。二〇一六年になって、東京オリンピック大会の組織委員会の組織図は公表されたが、大会実現の責任と権限の帰属は明記されなかった。この責任所在の欠如が、政治献金が盛んな建設業界を増長させ、競技場の建設費を吊上げた。主催者である東京都の知事は、無責任時代から最終的に小池都知事になり、初めて四者委員会(国際オリンピック委員会、東京オリンピック組織委員会、東京都、政府)で大会準備費用二兆円以下の圧縮に合意した。小池都知事は、多くの新設競技場を仮設にして費用を圧縮することを考えたが、仮設競技場費用合計は二千八百億円になると言う。この設備部品を、取外したのち廃材にせず、災害や公共施設に転用できる設計が可能なら良いと、私は考えた。

 東京で第一回オリンピック大会が開催されてからすでに半世紀、日本はもはや「発展途上国」ではなく「高度経済成長」から経済バブル時代を過ぎ「成熟老化国」へ変貌を続けている。しかし日本の財界やスポーツ界、過去に思いを馳せる年代、はては面子や商魂を理由に、この東京大会が期待され準備が進む。その恩恵とは、 ・社会下部構造の更新・現代化と競技場建設
・大会関連商品の特需
・外国人を含む競技場観客の消費
・スポーツ関連商品の売上増加
・外国人向け環境整備(案内、表示、無料WiFi)

 東京を中心に大会中は外国人観光客が増加、競技場周辺の人間の移動が激しくなる。さまざまの災害や事故・犯罪の可能性が増え、これに対応した準備も必要になる。 ・大会以前から工事労働者やサービス業人員の東京への集中移動
・大会後の競技施設の民間への売却、競技施設の維持費
・治安の悪化(暴動、麻薬を含む犯罪、疫病)
・自然災害や事故災害(交通事故、火事)の増加
・観光地を含む国土や文化遺産への損壊

 人口減少で必要な労働力を提供する外国人は日本で増加する。これからの日本の発展は、純血ゆえガラパゴス化せず、移民も増やし外国人との共生が必要になる。また狭い日本の国土を外国人に乗取られ支配されないように、法制度の整備が必要になる。領海域だけでなく国土陸地内でも野放しの状態だと認識される。しかし、東京オリンピックは、日本を国際化するため整備の絶好の機会でもある。  

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