「世界文化遺産」獲得の目的は面子か
先回、「オリンピックの金メダル数やノーベル賞受賞者数など」に目くじらを立てなくても良いではないかと私論を提案した。日本に「世界文化遺産」が増えるのは悪いことではないが、日本だけを引き立たせるよりも、隣国の支持も取り込んだ方が、今後のお互いの幸せのためになると思う。そこで、六月中に採択が決まると言う、「明治日本の産業革命遺産」の問題について考える。登録申請中の二十三箇所の遺跡中、「朝鮮人が強制労働をさせられた」理由で七箇所を除外するよう韓国大統領が先頭に立って運動している。日本は「良いもの、美しいもの、美味しいもの」で有名になりたいと願っている。「世界文化遺産」は国連の独立機関であるユネスコが認定するが、中には「肯定的な遺産」ばかりではなく、「否定的な遺産」も少なくない。その例は、ポーランドにあるアウシュビッツ強制収容所や日本の広島にある「原爆ドーム」である。日本政府はことある毎に、外国の要人を原爆慰霊碑などに招くが、米国政府は面子上、それほど乗り気でないのは、我々が見るとおりである。
軍艦島で働いた
炭鉱労働者と軍国時代
長崎県の「軍艦島」を含む、申請中の日本の「明治日本の産業革命遺産」の時代は「一八五〇年代から一九一〇年」に限定されている。軍艦島は江戸時代、一八一〇年に幕府に認識され、明治・大正・昭和の富国強兵時代の民間炭鉱として、太平洋戦争後の日本経済高成長期に石炭産業が石油産業に敗退するまで操業された。一九一〇年には当時の朝鮮を日本の国土にする「日韓併合条約」を結んだ。世界遺産申請のための時代を上のように限定した日本の下心は、日本軍国主義の国際的非難を回避することだと思われる。軍艦島は地下炭鉱として、それから一九六〇年過ぎまで、半世紀以上も操業されていた。この炭鉱は当初から民営で、捕獲した外国人に強制労働をさせたわけではなく高い賃金で募集した。ただし、大日本帝国の政策が時代と共に強化されると、外国人と邦人を問わず、日本にいる「全住民に過酷な国家奉仕が強要」されたことは我々の記憶に新しい。中国人や朝鮮人だけが、そこで戦争中に差別的に強制労働させられたわけではない。太平洋戦争が激しくなると、全国民の財産、我々の両親や祖父母の結婚指輪も供出させられ、戻っては来なかった。
国家の隠蔽体質は世界中にある
国民に洗脳教育をする国は隠蔽体質が強く、軍が政治を支配する国と言える。そのような国は政治革命(クーデター)が起こるまで体質は変わらない。典型的な例は、ナチス下のドイツ、秘密警察KGB支配のソビエト連邦、中国共産党独裁の現在の中国だろう。高速鉄道の衝突事故で責任を逃れるために、証拠品の列車を地中に埋めたことが笑い話になるくらいだから。この国では天安門広場に現在共産中国の創始者、毛沢東をあつく葬っているが、現在中国の教科書では「数多ある毛沢東の失政」については教えない。彼の間違った経済計画と個人財産の没収のおかげで、何億と言う農民が餓死した。中国も韓国も国内統治がうまく行かないとき、国民の眼をそらすために日本の戦争責任を非難する。今年は抗日七十年記念で盛大な日本批判を展開する。米国政府は「イラクへ武力侵略した」と単純に答えている。一方、日本政府は中国や朝鮮に「武力侵略したか」と聞かれると、「あれは併合だ」と言って「侵略」を認めようとしない。これが中国や韓国を怒らせるのだ。靖国参拝への抗日は副次的なものだと私は思う。
透明性が日本の国際化を助ける
さて「世界文化遺産」登録になる「明治日本の産業革命遺産」については、出来る限り「透明・公平な歴史記述」が望まれる。対象とする期間も外国人労働者が多くなる時期を含めるべきだ。明治日本の産業革命がこれほど成功したのは、江戸時代からお上に従順だった国民と維新後の指導者の必死な努力の結果だが、その裏方をつとめた国内外の中国人や韓国人の努力や犠牲も公平に評価されるべきだ。未だに残る日本人が持つ「白人崇拝アジア人蔑視」の偏見を続ける限り、世界第二の経済国となった中国の「両面政策(人種偏見は弱め金権支配は強め)」に勝つ方法はない。アジア人全体を日本人と同様に公平に処遇して、彼らから最大の協力を得ることが、我々日本人が生き残る道だろう。