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日本政府は二〇二〇年の東京オリンピックまでの七年間に、昨年の外国人観光客数の千万人を倍増したいと表明している。テレビ番組「未来世紀ジパング」では、物価が高いノルウェイと超物価安のブルガリアを取上げ、この二カ国に観光客を増やすヒントがあると、旅行企業の職員は宣伝方々切り込んだ。番組では、両国とも人口が一千万以下なのに観光客数が人口よりも多いと、日本政府から頼まれたような情報を流す。昨年日本を訪れた外国人観光客全数のうち、北米は一割、西欧が一割、アジアが八割だという。西欧の観光客はアジア諸国の観光客の三倍も、日本の「地元の姿」に関心を示した。利益優先の日本を売り込むよりも、「気取らない日本」と「日本人が愛する伝統文化」を外国の観光客に見せる日本でありたい。
我々日本人は、外国観光旅行と言うと、行き先の国の文化歴史を知るよりも、きれいな景色を見て、美味しい料理をたべ、買い物をしたいという物理的な欲求が強いのではないか。実績から見ると、中国人観光客は我々と同様以上に、買い物が好きだ。日本へ来るアジアの観光客が、日本人と通訳なしに交流することは言葉の障壁ゆえに困難だ。そこで日本語の通訳ができるその国の人を雇えばいい。西欧人の多くは、キリスト教と言う共通の宗教が千年以上も浸透している社会に住んでいるためと、英国を除いては陸続きで旅行ができるため、昔から人の往き来が盛んだった。そのため、異国文化や異国言語と接する機会が多く、彼ら外国人同士で交流をすることが日常で多かったため、言葉の障壁は比較的低かったと言える。
一方、東南アジアには多くの国があるものの、そこにはキリスト教のような全域共通な宗教はない。アジアの宗教は、大別すればヒンズー教、回教、仏教であるが、人口を多い順に見ると、中国(14億)、インド(12億)、インドネシア(2.5億)、パキスタン(1.8億)、日本(1.2億)、フィリピン(1億)、ベトナム(0.9億)、タイ(0.7億)、ミャンマー(0.6億)となる。これら諸国でも、シンガポールのような多民族国では、他言語を話す人同士がある程度は理解できる。日本でも神戸や横浜は、歴史的に欧米との貿易が盛んだったので、商売柄、英語が分かる人々も多い。インドは、十七世紀はじめ、広大な国土が英国の植民地となり、乗り込んできた英国人は、現在も日本に来る米国人のように、自国語の英語しか使わなかった。当時豊富にあったインドの金銀は殆ど英国に流出したが、インド人が唯一英国に感謝するのは、英語と言う国内共通言語を得たことだという。現在のインドには、標準インド語があるものの、方言が異なる州の住民同士では普通、英語を使うらしい。
外国人観光客が使う金額は、観光目的が異なるため、中国人と非中国人とは大きく異なる。発展途上国の人々は「多くの買い物」をしようとし、成熟国の人々はゆったりと「他国の文化を知りたい」と考えるらしい。外国観光客を増やすには、現在全体の二割しかない成熟国欧米の観光客数を大幅に増やすべきだと番組では言うが、観光客全体が使う金の平均額を押し上げるのはむずかしい。雪の北海道は最近、オーストラリアやタイやインドネシアの観光客に人気があり、自国にない雪と彼らが住む熱帯とは異なる生活が魅力らしい。また、北海道へ移住したニュージーランド青年は、彼のインターネットを使った北海道観光事業が軌道に乗り始めたと言う。
政府や旅行業者などが考える観光プランは、移動も宿泊も買物も全て「団体」と言う、日本的「大量生産型」が主流ではないか。団体旅行は必ずしも安くないし、欧米人は型にはめられるのが嫌いだ。かれらは、「おもてなし当局」が期待しているように、駅中ショッピングモールで買い物をし、ハイテク兵器リニア新幹線に乗り、高価なホテルに泊まることは少ないだろう。なぜなら、かれらは不景気で一般には金がなく、都内では秋葉原や上野などの安宿に泊まってしまうからだ。外人客を増やしたいなら、西欧に多いユースホステルのような低廉な宿や民宿を、全国的に見直すことだ。それは地元経済の活性化になるが、「外国人の入国および国内管理」には細心の注意が必要だ。その国の国民に対し政府の命令で日本を乗っ取ろうとする国もある。とにかく政府が考えている「おもてなし」に乗るような観光客は、議員のように使う金に恵まれた階級であり、外国人観光客のごく一部でしかない。一般外国人観光客には、ご招待なら別だが、高価な「日本一うまい酒」や「世界一美味しい米」を味わうために大金を使う習慣がないし、ゆとりもない。