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特集記事

Vol.169 -- 2014 年 05 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」

第六十回 安倍総理の売り言葉

国内国外情勢が激しく変化する中、我々の前には、「棚上げや先送り」されて来た「重要な課題」が山積している。足掛け三年目に入った安倍政権は従来の政権に比べ国内外に対して「積極的に政策を発信」している。外国訪問を頻繁に行い総理大臣自ら「日本の売込み」をしている点は、従来の総理大臣と違って頼もしい。第一に日本の原発輸出、第二に大国外交手腕、第三に貿易協定TPPと日本観光について考えてみたい。


日本の原発輸出
テレビニュースに映し出された安倍総理が外遊の会見、「日本の原発は世界一安全」は記憶に新しい。もちろん総理は、同行させた通商団の原発企業の願いを代弁した。さて原発は、適正な核反応の制御ができないと「殺人性放射能を撒き散らす危険極まりない化学工場」になる。日本は米国などと異なり、「核兵器の開発」が出来なかったために、原発を設計するに十分な「現実的情報(経験)」が手元にない。三年前に起きた東電福島第一原発事故は、日本人の手では今もって収拾できないでいる。この理由は複合技術力と危機管理力の不足と言える。しかし二〇〇六年頃から進んだ米仏と日本の原発企業との合弁企業を使えば、日本の複合技術力と危機管理力の不足を補い、国際原発市場で主要競争相手であるフランス、韓国、ロシアと対決することは可能かも知れない。中近東諸国における日本の競争相手たちは、そこの政府に武器を売ったり、大型ビルを建設したり、公共工事をしたりと手堅い実績を持っているから油断が禁物だ。

大国外交手腕
現在ほど「多国間の関係」が複雑な時代はない。その均衡は一国の政治家の言動に左右されることも多い。総理大臣は、自分と相手国のどちらが切札を持っているかを慎重に考えて行動するべきである。「棚上げや先送り」されて来た「外国との重要な課題」には、いわゆる『日米軍事協定』と「領土問題」がある。

二十一世紀はアジアの時代、米国の世界戦略は経済軍事ともに東アジアに軸足が移動している。金の動きはインターネットがあれば管理できる。陸空の軍事にロボットや無人機を使い始めた現在も、海兵隊は物理的に基地から艦船を出し、海軍は空母から航空機を飛ばすことがまだ必要な時代だ。そのため、米国が中国や北朝鮮に軍事的に対峙するには、中国大陸太平洋岸沿いに近い基地が必要になる。基地が置けるのは、グアム島よりも断然中国大陸に近い日本(沖縄)だ。今のところ、日本に代わる米国のアジア軍事同盟国はない。

安倍総理の昨年末靖国神社参拝やNHK籾井会長の朝鮮慰安婦発言への賛同表明は、中韓との領土問題を不利にするものだと思う。米国をはらはらさせ、中韓に再び言いがかりを与えた。安倍総理は、オランダで行われたG7「ウクライナ危機」首脳会議で、ロシアのウクライナ軍事介入を批判した。これは日露領土問題を積極的に話し合うと言うプーチン大統領を逆撫ですることにならないかと心配だ。媚びる必要はないが、多言は災いの元になり得る。

貿易協定TPPと日本観光
貿易協定TPPの対象除外五項目(米、麦、酪農製品、畜肉、砂糖)に対して、日本の生産者は関税引下げに強く反発している。政府の国内政策は「棚上げや先送り」と言う無策放置を続けたように見える。農酪畜産業事業者の多くは、米国などに比べて所有地規模が小さく、合理的効率的生産が困難だ。またかれらの事業は、利害が異なる監督官庁が別々に決める規制により制限される。それに加えて、日本では肥料飼料燃料価格が高く、政府の補助金に頼りがちで事業改善が進まないと言われる。事実、野菜も含めて、これらの食材や食品の国内消費者価格は米国の三倍、我々消費者はもっと安ければ良いと思う。私は個人的には、農協が流通させる「寸法や形がそろった」きゅうりを食べたいとは思わない。米国生活の経験では、アジア系人は食材の見てくれに厳しい。でも食卓に上がれば、買ったときの食材の姿は見えない。

最近、富士山が世界遺産に登録され、日本食はユネスコの無形文化財になった。2020年オリンピック大会を目標に、政府は「おもてなし」を合言葉に観光客を現在の二倍の年間二千万人へ、日本食材の輸出を増やそうと宣伝する。日本政府は生産者を代弁して、粋を極めた日本食と食材を奨励している。成長するアジアでは日本食に人気が上がっている一方、香港の日本料理店では「高価な日本米」の代わりの「ベトナム米」が増えていると言う。「良かれ高かれの日本産」は「一般消費者市場」では勝負が難しい。


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