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特集記事

Vol.161 -- 2013 年 09 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」

第54回<誰のための「成長戦略—人材育成—英語力強化政策」か>
この七月に日本版ニューズウィークは、十ページ以上にわたり「日本人の英語力」特集記事をのせた。また、十年も日本マイクロソフトの社長を務めた成毛氏の著書によれば、日本人の九割以上は英語が不要な職業で生計を立てている。だから、九割以上の日本人には職業上英語は不要だと言う。彼の主張は、英語が不要な人間が英語を学ぶのでなく、必要に応じて勉強をすることで十分だと言う。
安倍政権の義務教育における英語力強化政策は「学校と父兄と生徒を直撃」するかもしれない。父兄には学習塾や予備校の費用、都心大学への仕送り、今回は英語の「義務教育化」と余計な出費が増えるだろう。もっとも、文部省の学習指導要領は小中高と学校の特殊性によっても時期的にも変わってきている。
以下に実施に必要な予算を試算したところ、初年度だけでも、全国六万人の英語教師に合計三千億円以上の特別訓練が必要になる。儲かるのは日米の英語教育業界だ。そんな膨大な金を国民の税金から使うなら、英語力強化授業は義務教育期間での「選択科目」として存続させ、この予算の大半を、金の卵を産む「別の分野の人材育成項目」に振り当てるべきだ。そして、その振り当て方は、各地方の特性を色濃く反映するものでなければならない。

1.安倍政権で考える英語力強化とその実現方法
安倍政権の「成長戦略」の一項目グローバル人材育成「英語力の強化」は、国際市場において日本人が英語を使って他国の相手と「取引や契約が出来る語学能力を身に付ける」ことと理解する。ここで「英語力」とは「英語を使っての読み書きのほか英会話などによる意思疎通能力」を意味する。
この十年来、シリコンバレイで遭遇する日本人の英語会話力は向上している。しかし、一定水準以上の会話能力を持つ日本人人材は、地球規模で言えばまだまだ不足しており、環太平洋貿易協定をきっかけに更に需要が増加することは間違いない。
安倍政権が発足させた「教育再生実行会議」で検討中という英語力改善の実施案では、「道具としての英語力の習得」に舵を切り直すらしい。
そこで日本の識者たちが検討している、「義務教育の英語授業の開始を小学校四年に繰下げ」、大学受験科目に二万円以上もかかる米国のETS社の外国人学生英語試験(TOEFL)を加えると言う案は、どうみても「非現実的」、かつ「子供を持つ親の経済的負担を増し」、結局は「教育産業に金を落とすことが目的」としか思えない。
家計が苦しいのに、自分が十分な教育を受けられなかった日本の親は、子供を英語教室に行かせることに、心の満足を感じる。

2.日本の英語教育と英語力保持者への需要
いまなお、義務教育課程を教える日本人英語教師の多くは、「英語力」が不十分だ。彼らは英語力がない先生から教育を受け、教える立場になってからも、外国語に親しむ機会に身をおいてこなかったからだ。
無料で英語に親しむには、外人教会の説教を聴くのも手っ取り早い。英語放送は、耳から聞く能力を上げるのに効果的だ。スラングや歌詞や映画のせりふに通じていないからと言って、実用英語が出来ないわけではない。帰国子女だからと言って、十分な語彙があるわけでもないし、成人が使う語彙も十分ではなく、どっちつかずになりやすい。日本は、香港やシンガポールやインドのような英国の植民地環境になかったので、幼いうちから英語を覚え、その能力が職につながる事は、横浜や神戸と言うような特殊地域以外では、なかった。
今後、英語力保持者への需要は増えるものの、義務教育の生徒全員に、制度として金をかけ強化された英語授業を履修させたからといって、職業人として必要な英語力があるとは言えない。

3.英語力強化政策に必要な予算
目の子算でこの制度を実行するのにかかる、英語教師訓練の予算規模をごく大まかに推定してみよう。
日本人の年齢別人口(五歳から十九歳) 千八百万人
小学生(四年以上)、中学生、高校生の人口 千二百万人
英語授業のクラス数(クラス四十人) 三十万クラス
英語授業時間(週三回) 九十万時間
英語専任数(週十五時間) 六万人
英語力研修費用(一人五百万円) 三千億円
この制度で義務教育された「英語力を持つ大多数の人」が、「勉強と時間と金に対して恩恵がない」のを知りつつ、政府は「英語力強化政策」を推し進めると言うのか。数十年前、みんながこぞって個人用にコンピュータを買ったあげく、これを活用した人はどれくらいいたのか。
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(送り先 月刊ハロー編集部)
 


 

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