Vol.158 -- 2013 年 06 月号
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第51回<政府も電力会社もお手上げの「原発事故とその処置」>
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事故を起こした東電福島第一原発は、多くの問題を残したまま放置状態に置かれ、危険度は増している。いま一度、基本に立ち戻り、必要な手段を取るべきだ。総理大臣までが「世界一安全度が高い日本の原発技術」などと、大嘘をついてもらっては困る。原子力発電所は他の発電所とは異なり、「作ったあとが問題」なのだ。現職の総理大臣は、起こってしまった原発事故の収拾にも責任を持たなければならない。電力会社だけに責任を押し付けてはいけない。過去に原発政策を打上げたのは政策主導の日本政府なのだから、電力会社の中に「原発事故収拾の技術力」を持たせなかったのは、日本政府の怠慢である。
原子力発電の特異性
電力を発生するにはさまざまな方法がある。第一は、風力や潮力や水力のような、完全に「自然の力」で発電機を回す方法、第二は石炭や石油や液化ガスと言う「化石燃料の燃焼熱」を使いタービンにより発電機を回す方法、第三は「原子核反応の熱」を使いタービンにより発電機を回す方法だ。地震などの災害を考えると、第二の方法は「火災」のみ、第三の方法は「放射線災害」が最大の問題となる。残念ながら、日本の電力会社は一九七〇年代当初より現在にいたるまで、「放射線災害を収拾する能力」を全く持ち合わせずに原発の運転を開始した。「原子力発電所」は製鉄所や精油所や化学工場にくらべ「次元の異なる複雑な工場」である。政府や付属機関は、一旦事故が起きると「原子核反応を止める方法」がなくなる可能性を認識しないまま、安全安価な発電方法だと「見切り発車」してしまった。原発は、「消火器が利かない火事」を起こすと言うことなのだ。今回は実際それが起こり、今もって火はくすぶり続けている。
もたつく東電と脳力不足の政府
二〇一一年三月に起きた東日本大震災当時、原発事故に対する東電と政府の対応を思い起こしてみよう。これは一大事と在日米軍は三陸沖合に航空母艦まで待避させ、日本政府に支援を申し出たが、日本政府はこれを断った。さらに、フランスは在日大使館を通じ原発企業アレバ社の支援を申し込んだが、日本政府はこれも断った。そして、「原発事故処理の経験が薄い東電」と「縦割り利害に振り回される日本政府」の東電に対する事故収拾指導が始まった。当然ながら、日本国内に米国やフランスのような「原発事故収拾が出来る集団」は存在しない。そして、いま三年目、福島の原発の事故「解明」は相変わらず進まず、被災民に対する「救済事業」もおくれ、「冷却汚染水の処理」も進まない。この事実から、「現代日本に決定的に欠けている能力」が浮かび上がる。それは自己の面子と利益を保つために事実を隠蔽し、問題解決の判断を下さないことだ。日本政府も東電も、国民を放り出して、自己の利益のために遊んでいるようにしか見えない。
やる気があるなら、遅すぎることはない
東電の原発事故が起きてすでに三年目、さまざまな問題が起こり、その収拾能力がないことが明らかになった。と言うことは、これらの問題を収拾する技術力を持つことが、「新しい市場の開拓」になると考えたら良い。例えば、いま大問題になっている「汚染水処理」、「汚染水貯蔵」など「余りに稚拙な」東電の「自前の池」を作るよりも、日本のプラント建設企業に任せて技術開発をするべきだ。それも無理だと言うなら、米国やフランスから必要な技術を買って原発事故の収拾を行えば良い。そして、原発だけで操業する電力会社を作り、既存の原発を全部移管することだ。そうすれば、この原発電力会社は必要な原発技術を一元化し特化することが出来る。それが経済的に無理だと言うならば、原発そのものの存在価値がないと言うことになり、国民の納得を得られるだろう。しかし、日本政府には面子があるから、原発政策の「のぼり」を下ろさないだろう。日本の電力供給網が五十ヘルツと六十ヘルツに別れているのは、歴史的に電力設備を日本が外国から輸入したときに、東から英国、西から米国が縄張りを作って日本電力網を二分したために生じたのだ。
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