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特集記事

Vol.125 -- 2010 年 09 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」

 第18回<原爆記念日の課題>

  今年こそは、原爆記念日に米国の大統領が出席して謝罪を述べるのを聞きたいと多くの日本国民は願った。しかし、そんな願いはもろくも崩れ去った。原爆記念日式典に初めて米国代表として出席したルース駐日大使は無言だった。そしてテレビ報道でクリントン国務長官は米国には過ちはないと記者会見で答えた。戦前っ子である私の脳裏には、いくつかの思いが渦巻いている。第一は、太平洋戦争の動機と開戦、米国が日本に原爆を投下したのは、真珠湾奇襲攻撃を日本が米国に対して起こした報復だと言うのが、米国の言い分だ。第二は、戦争の後始末で、太平洋戦争後発足した日本政府は、原爆の後遺症に対して、情報があるのに適切な対処をしなかった。第三は、太平洋戦争後の新政府の体制で、教科書における歴史認識問題で、自国の国民に対しても戦争の動機や経過を偽り、近隣のアジア諸国に対して適切な処理を怠っていることだ。
第一の問題について何が問題なのか。私の結論は、戦争をするにも、政治をするにも、「冷静で論理的な計算力と推測力」を駆使しなければならないと言うことだ。もともと資源に乏しい日本は、天皇の名を借りて政治を牛耳る軍部が朝鮮と中国の植民地化で自信を持ち、そこから得た石炭と鉄資源に連合国オランダの植民地であったインドネシアの原油を入手して、枢軸国として連合国に対して太平洋戦争を仕掛けることを図った。しかし、開戦後わずか半年で艦船と飛行機と操縦士の大半を失いながら、なけなしで国民を苦しめ、三年も意地で戦争を続けたことは、連合国側のように「冷静で論理的な計算力と推測力を使わない」ことにあった。六十年以上続いた「政治腐敗と社会構造の破壊」は「太平洋戦争の誤算」と極めて似ている。我々は今もって、精神論である「竹槍精神」が好きであるが、それは物事を正しく判断する基盤を捨てることになる。
第二の問題でなすべきことは何か。日本政府は被爆者認定の幅を広げ、実際に苦しんでいる患者を即刻救済するべきだ。被爆者たちが被爆されたことは彼らには全く責任がなく、戦前政府から引き継がれた現在の政府の責任になる。その治療や年金にかける費用を節約しようとするばかりに、国民をけしかけ、外国に対して「核兵器廃絶」や「原爆投下謝罪」を叫ばせる結果になってしまった。これは中国政府が国内問題から国民の目をそらすために、日本の靖国問題や米国のアジア軍備に対して激しい批判をするのと似ている。原爆が投下された1945年から65年が経ち生存者が減ることを政府は待っていたのであろうか。今は景気が悪いといっても、不動産バブル時代である1980年代後半から1990年代には、日本は金に満ちていたのだから、もっと早く適正に原爆症の認定を下すべきだった。政府や役人にとって最も重要なことは、彼らが金銭的に得をするように立ち回ることではなく、菅総理が言うように不幸な国民を減らすことである。
第三の問題でするべきことは、国民一人一人が自国の歴史を正しく知り、非白人の外国人に対して変な優越感や傲慢さを捨て去ることである。これは言うのは容易でも実践は、はるかに難しい。それには、国が歴史教科書で正しい歴史事実の客観的な記述を認可することが基本であり、日本近代史を間違いなく履修させる時間計画を立てる必要がある。戦後六十年間今まで、大方の学生は、古代史から始め近代史に入らないうちに学期が時間切れになる。国際性とは、各国にそれぞれの宗教と文化と歴史的背景があることを尊重することだ。アジア諸国から日本が非難を浴びるのは、軍国主義時代にアジア諸国に対して行った武力侵略や虐殺を日本政府は認めようとしないことなのだ。政治家が謝っても日本の歴史教科書の記述が訂正されなければ口先の謝罪と取られる。政府が認定しない原爆被爆者が助けなしに亡くなっていくように、時間を稼げば、日本軍に暴行されたアジア諸国民が亡くなっていくから放置すると言うなら、これはとんでもないことである。日本企業に働く中国人労働者には経営者になる道は開かれていないから、労働意欲が湧かない。中国人労働者が、アジア諸国をあれほど搾取した、米英仏の中国現地法人企業を日本企業よりも好む理由は、努力次第で経営者に昇進できることだ。日本企業は気が付き出したが、自尊心が高くて雇用方針を変えることは出来ない。もう十年以上前に、米国シリコンバレイで、世界的日本ハイテク企業の放送用ソフトウエアを開発しているMIT出身の技術者が私にもらした。「米国の事務所で決済できることなのに、内容が分かっていない本社に、いちいち伺いを立てなければならない。時間が無駄だから、ぼくはもう辞める」と。
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