Vol.124 -- 2010 年 08 月号
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第17回<消費税率を上げて何が改善できるか>
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財務省発行の日本財政関係諸資料のなかで、平成二十一年補正後の一般会計歳入計画、百二兆円の内訳を見ると、四十三%が公債金収入、四十五%が租税および印紙収入でこのうち所得税が十五%、法人税が十%、消費税が十%(十兆円)その他諸税と印紙収入だ。消費税率を十%に上げれば、単純計算では消費税収入は十兆円増え、歳入合計は一割増える。現在の消費税は一般財源なので用途は限定されていない。北欧諸国の厚い社会福祉が高い税率に支えられていると言う外面的観測から、日本の社会福祉の破綻を防ぐには、消費税率を上げるのが良いと短絡する。ホテル産業のサービス、医療や教育の料金など以外の項目には日本特有である「一律消費税」がかかる。国民感情では、細やかさがない、この一律消費税は十%が限度だろう。
それにしても、消費税率を云々する前に、我々が払った消費税は、ちゃんと税務署に届いているのか。そうでなければ、いくら消費税率を上げても、穴が開いたざるのように、集められた消費税は、物を売った商店へのチップになってしまい、予想されたようには国庫に入らない。実際日本では、年間売上申告額一千万円以下の商店などには、客から取った消費税の申告の義務自体がないから、商店が小売で集めた消費税は、高々年間五十万円とは言え、これは各商店の懐に入る。年間売上申告額一千万円の商店が全国に百万店あるとすると、国庫に入らない消費税の総額は、それだけでも五千億円となる。医療保険の利かない手術料金を千万円として、「領収書なし」なら「まけて置く」と医者に言われれば、少しでも出費を節約しようと、大方の患者はこれに応じるだろう。小は商店の商品仕入れから販売、大は病院による高額の医療費請求から患者の支払いが、日本ではしばしば「二重帳簿」と「現金決済」で行われるため、税務署は売買の実態を正確に把握出来ない。集めた消費税の五割しか国庫に入っていないとすると、これを完全納付(十割)にすれば、現在の消費税率を十%にしたと同じ効果になる。
現象的に見れば、今もって日本は先進国中の脱税王国であるが、それには、いくつかのわけがあるようだ。日本には「いくら」の金が「誰から誰へ」渡ったかを「追跡」する方法がないのだ。それは日本が「現金社会」であること、現在「個人小切手制度」がないこと、そして「国民番号」を標識として使わないからである。理由は、現状の抜け道だらけの会計体系で巨万の脱税をしている集団が、国民番号に反対するから法制化されない。国民保険の掛け金を取り立てた役所の職員が記録を残さないで猫糞(ねこばば)したという件数が多かったことも、舛添元大臣から指摘された。役所の責任なのに、領収書を持ってこなければ、記録を修正しないと役所は言い張る。支払い者が国民番号を使い、個人小切手で掛け金を支払っていれば、役所のデータベースに入金が記録されるから、米国ではこんなことは起こりえない。一方日本では、現在でさえ、自動引き落としをしなければ、郵便貯金通帳から健康保険や税金の直接支払いをすることは出来ないため、通帳に支払い記録は残らない。
徴兵に悪用されるからと、革新政党に扇動されて「国民番号」に反対したのは、実はわれわれ日本国民だったし、「個人小切手」も過去に実施されたが、日本国民に全く受けられなかったのだ。米国は小切手と署名を基盤にした人間信用社会で、「国民番号」を使い、コンピュータにより「小切手」はすべての銀行で認証され、その収入をごまかすことは出来ない。日本国財務省の予算では、所得税収入は消費税収入の一・五倍とみているが、日本のような「現金社会」と「国民番号がない」環境では、所得税の収税率はこの程度にかなり低いと思わざるをえない。これを放置して、財源確保に安易に消費税率を増やすと言うのでは、国民は納得しない。
日本のもう一つの問題は、「印鑑社会」であることだ。すなわち、「誰が押そうと」判子しか信用しない。そう言うかと思えば、顔見知りなら、何億円でも担保なしに金を貸す。日本では契約書や金銭の授受に、「認印」で済む場合と「登録印鑑」が必要な場合とがあるが、「認印」が「個人の署名」で代行できないことが未だ多い。早急に明治時代以来の「印鑑制度」も見直すべきだ。これが「契約の余計な書類と手間」の原因だし、居所を移動する度に別の自治体に印鑑登録を届け直すのは、縦割り行政の弊害だ。せっかく設置された高価なコンピュータがあるのだから、これを駆使して、金の動きを透明にし、脱税を減らし、全国的な認証制度を作り、会計効率を良くすれば、国の収支も大幅に改善されると思うのだが。新しい手法を団子のようにぺたぺたと付け加えるよりも、古い制度の限界を見極め、思い切って基盤を変える方が、世の中は効率よく動くようになる。会計制度と収税方法の包括的改善が必要だ。
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