Vol.112 -- 2009 年 08 月号
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第四回<しろうと内閣とくろうと官僚>
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文芸春秋は「四年で四人の総理」や「正しい二世の育て方」など、日本の政治の問題点について興味ある記事を載せていた。選挙を経ないで総理大臣になった御仁たちはそろって族議員で、政治家としての判断力や指導者としての資質を問われる。五、六十年も続いた自民党内閣は「お友達内閣」であり「お茶の間内閣」であり「ご料亭内閣」であり、内外共に競争力を持つ人材は少ない。一方、議員たちは既得権の上にあぐらをかき、茶番劇で内輪もめばかり演じる。解散も間近だと言うのに、絶大な与党である自民党は、次期選挙に向けての公約さえまとまっていない。閣僚は官僚や議員と共に公僕なのだから、国民に血税で雇われている事を忘れてもらうと困る。日本では国民は総理大臣選出の権限も持たず、議員選挙などを通してしか国政に参加できない。政治に不満があるからと言って投票を放棄すれば、恩恵を受ける有権者ばかりが投票して、不満な有権者の意志は反映されなくなる。米国のブッシ政権では国民投票率は三割まで低下したが、今回の大統領選では七割まで上がった。日本でも今回の都議選で投票率が五割以上となり、一割も上がった事は喜ばしい。
そこで、私は「しろうと内閣とくろうと官僚」と言うお題を持ち出そうと思う。行政の使命は、有権者に対して公約に基づいて政策を実現する事であるが、日本は「法治社会」でもないし公約は大方実現しない。一旦内閣が成立すれば、あとは「お友達同士」で大臣の地位をたらい回しにして、利権を食い漁るだけだ。政策が決まり、閣僚は課題を実務実情に詳しい官僚から持ち上げてもらわないと何も出来ない。国政の最高機関である内閣がその下にある主要幹部官僚を任命できないと言うのは一体どうしたことか。独立法人への天下り人事もただ傍観するばかりだ。国家公務員制度改革以前の現在の法規では、人事院がこれを取り仕切る。閣僚と官僚の間に信頼感はうまれない。度々の不祥事によって大臣の辞任が起こる。運が悪く発覚したら辞めれば良いくらいに当の大臣は思っているから、国民はたまったものではない。国際間の競争が激しいこの世の中では、大臣には少なくとも、一般管理職以上の専門知識と判断力が要求されるが、そんな期待は無理かも知れない。例えば、「文部大臣」をやった人物が「外務大臣」をやるような事が日本では頻繁に起こる。未経験の分野でもお構いなし、仲間内であることが全ての条件を優先する。チームワークと馴れ合いとの区別がつかない。そんな素人大臣だから、中国やロシアにはお手玉にされ、年貢ばかり取られて、何年経っても領土問題は解決しない。日本国内の外国人問題も手に余る。猫の手も借りたい少子化というのに、日本国民になりたい在留外国人は三十五年待っても政府は首を縦に振ってくれないと言う。海外援助では膨大な国民の税金をばら撒いて、政党やメーカや管理者派遣と言った日本側関係者の実入りは多いが、実際に外国に支払われる予算は少ない。箱物の寄贈よりも、インフラ整備を助ける方が受益国との経済関係を緊密にするには手っ取り早いのではないか。
日本の高度経済成長時代には、豊かな国民生活を目指してさまざまな団体の「保養所」が増設された。国による福祉の一貫として、社会保険庁の厚生年金休暇センターや旧郵政省の簡易保険福祉施設(のちの、かんぽの宿)などは国民の保険掛け金を使い次々と建設された。現在これらが問題になっているのは、第一に採算を度外視して新築が続いた事と、第二に官職の天下り先の確保であった点と、第三に民営化されるときも日本郵政とグループ企業の最高責任者たちの任命権が人事院にあり、唯一の株主である政府にはなかったことである。だから、日本郵政と言う列車は、旧郵政省首脳を首脳経営者として乗せたまま省庁と言う駅から発車してしまったのである。2007年に郵政民営化により日本郵政が発足したときには、不採算処分の対象となった全国合計約百件、二千四百億円の宿を従業員と共に百億円で天下った民間に落札する結果になった。国民の金を二千三百億円もどぶに捨てた時代の大臣の責任は勿論全く問われないと言うのが日本である。検察は悪者を上げるのが目的で、不祥事の原因追求はしないから、日本では何回でも同じような不祥事が起こる。それに時効と言う責任者に対する手厚い保護もある。
小泉内閣は挑戦しなかったが、国の出先機関の廃止などを突き上げられていた麻生内閣は「省庁の廃止統合」と言うことで人事院と妥協したが中身は骨抜き、部署の廃止があれば他の部署を作って旧部署の人材を温存すると言う案になった。小泉時代に大企業と同じまな板の上で骨太競争をさせられ、日本の企業数九割以上を占める中小企業は、心筋梗塞に陥った。百年に一度の不景気に対して、麻生内閣は大企業ばかり助けたため、実に多くの中小企業があの世逝きになってしまった。官僚は閣僚の耳元でささやいた、「大きい西瓜は残して下さいよ。私たちが食べるんですからね」
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