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特集記事

Vol.32 -- 2002 年 12 月号
い い も の
雰囲気もあったか、湯気もあったか 周りのすべてをあたたかく包んでくれる
  土 鍋
↑伊賀焼きの鍋は熱が全体にまんべんなく伝わるため、食材の良さを引き出してくれます。
 土鍋は、寒い季節の団らんに欠かせない器です。土鍋の生産日本一は四日市の萬古焼ですが、忍者で有名な伊賀や六古窯の一つ信楽の土鍋もよく知られています。各地の陶郷で焼かれたものや作家ものは少し値がはりますが、土味に窯の特徴や作り手の個性が加わって形、表情ともに味わい深くとても魅力的です。浅鍋、深鍋、大小様々に、どれも丸みがあり、ぽってりとしていて眺めているだけでもホンワカとした気分になります。鍋料理や煮込み料理のほかにもパスタ、パエリア、サラダなど、和・洋・中にとらわれず大鉢感覚で食卓に出して使っても個性豊かに楽しめます。
 土鍋には蓋の切れ込みが有るもの無いものがありますが、切れ込みはスタンダードなデザインです。取っ手が熱くならないように表面積を増やすためとか、お玉やレンゲを置きやすいようにとか諸説もいろいろです。実際は製作時の乾燥や焼成時に縮む際に力を逃がし、亀裂が入るのを防ぐ目的で切り込みを入れるようです。土鍋の陶肌は粗く吸水性があるため、お粥を炊くなどして目詰まりさせてから使い始めます。鍋にしみ込んだお粥が接着剤となり釉薬や灰汁の汚れや匂い、ひび割れを防ぎ鍋を丈夫にします。また、鍋の底をぬらしたまま火にかけない、熱い鍋を急に冷たいところに置かないなど、長く愛用するには鍋への心使いも大切です。
 土鍋の魅力は何といっても熱周りのやわらかさ。食材の芯までじっくりと伝わり煮崩れせず保温性も抜群です。土鍋で炊くご飯もふっくらと美味しく炊き上がります。鍋料理は基本的にはどのような食材でもよく、豪快にブツ切りにした肉や魚介類、野菜や練製品をまるごと放り込む寄せ鍋。湯豆腐や水炊きのシンプル鍋。牡蛎の土手鍋や鮭の石狩鍋といった名物食材を使った郷土鍋など、数え切れないほどの鍋料理があり、最後に食材の旨味が溶け込んだスープでいただく雑炊や麺まで、作り方も食べ方もいろいろです。他にも、おでん、豚汁、煮込みうどん、モツ煮、ポトフなど、この季節は土鍋が大活躍。アツアツの鍋料理には、しっかりとした旨味のエビスビールがピッタリです。煮上がりを待ちながら、立ち昇る湯気とともに鍋をつつきながら、ヘビー級のエビスビールといただくアツアツ鍋は何よりのご馳走です。土鍋の中でいろんな食材がコトコトグツグツ、一人でも大勢でも鍋を囲んでのひとときは体も心も温まります。さぁ今夜は何の鍋にいたしましょう。

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